「梨殿、」
「あ、蘭丸ど…じゃなかった、蘭丸くん。」
「ふふ、気にかけて戴いてありがとうございます。」


私を後ろから呼び止めたのは、少し見上げるくらいの大きさで、短パンから惜し気もなく美脚を晒す、森蘭丸くん。
彼たっての希望?で、私が殿をつけない数少ない男性、でもある。

そんな彼が、突然企画を持ち出してきた。


「…『一人称改革要綱』?どうしたのこれ?」
「私も、梨殿も、一人称が『私』です。これでは男として…こう…威厳が出ないと言うか…」
「曹丕殿とかトウ艾殿も私って言ってるよ?」

そう言うと「それは…!」と一際大きく息を吸い込んで反論が飛んだ。
曹丕殿もトウ艾殿も、顔付き体つきは男性らしいから許される…だけど自分達は違うのだ、と言う。
確かに蘭丸くんは女の子に間違えられるし、私はベースが女の子のままだから、二人ともお世辞にも「男らしい」とは言えない。声も女性のような高さだし…うん、蘭丸くんの言うことも分かるな。

「それで、一人称を変えるって訳か…」
「やはり、同じように可愛らしさのある半兵衛殿を見習い『俺』が良いのではと。」
「そうだよね、『僕』じゃまだ可愛いもんね。」

所謂俺っ娘……いや、男の時に言うんだから問題はないか、と思考を片付ける。
一人称を『俺』に変える事になんら抵抗は無かった。
まあいいや、早速実践あるのみでしょうよ!

「俺これからおやつの肉まん貰いに諸葛亮殿の所に行くけど、蘭丸くんも来る?」
「っえ?…ぁ、はい!わたs…俺も行きます!」

急に誘われたのが予想外だったのか、蘭丸くんは結局私と言いかけている。これは時間がかかりそうだな…。
だけど『俺』と言う彼もなかなか新鮮だな。身長も相まって、結構カッコいいキャラになってる気がする。

「どう?俺が『俺』っていうの違和感ない?」
「大丈夫だと…思います。」
「蘭丸くんもカッコいいから自信持ちなよ!よ!美丈夫!」
「そ、そうでしょうか……」

照れてはにかむ蘭丸くんを直視した。すいません前言撤回むっちゃ可愛いです!!!
それに比べてわたs…いや、俺ときたら…!なんて頭を抱えたら、目の前の曲がり角から蒸籠を持った諸葛亮殿が現れた。張り付く不敵な笑み。

「…あなた達が来ることは、予想していましたよ。」
「諸葛亮殿!」
「ふふ、蘭丸殿の分も用意しています、お二人でどうぞ?」
「…!ご厚意、ありがとうございます!」

ふかふかと湯気立つ蒸籠の中には、肉まんが4つ並んでいた。
流石諸葛亮殿、蘭丸くんの存在まで読んでいたなんて凄すぎる。
俺の部屋で食べよう!と蘭丸くんを誘い、諸葛亮殿には次の戦が終わったらお茶を振舞うことを約束した。
二人で蒸籠を受け取ってにこにことしていたら、去り際にはたと諸葛亮殿が動きを止める。何事かと俺たちが彼に注目すると、最高の笑顔がこちらを向いた。

「お二人とも、無理をせずそのままが一番だと思いますよ?」
「「!!!」」


さすが神算鬼謀。見抜かれた上ダメ出しをくらうとは!
諸葛亮殿が見えなくなってから苦笑いの顔を見合わせた俺たち…もとい私たちは、おとなしく肉まんを頬張る他なかったのであった。


『やっぱり、私達は可愛さで売るしかないね…』
『か、可愛さ、ですか………』


男らしく有りたいの