世の中には上下関係が付き纏う。 現に私も、フランクに接しても大丈夫な人には〜殿と呼称して敬語を使い、タメ語は殿を使わない人…と心掛けてはいるものの… 時としてそれはとんでもない地雷になる、ということを…まだ私は知らなかった。 「斬神斬魔…成し遂げたのですね、兼続。」 「はッ、御前からお褒め戴けるとは…」 「うろたえもの。」 「ぶはぁっ!!」 ……ここは、何処だったかな。 過去の筈だ。えーと、賤ヶ岳?多分。 しかも戦が終わったばかりの。 だから、ここはSMクラブじゃない、ゼッタイに。 目の前で俯せのままその背をピンヒールで踏まれ、困惑と恍惚の混ざった顔をした兼続殿からどうも目が離せない。 前から思ってはいたが、このイk……人は、変な所で突っ走る癖があった。 誰かが止めれば全力で謝るけれど…許せば許したで額が割れるんじゃないかと思う程壁に頭を打つこともあったくらいだ。 …それが、今目の前で行われた応報でパパッと理解出来て思わず頬が引き攣る。 『なるほど、俗に言う……ドMか…』 兼続殿の背を踏む女性は真っ白なてるてる坊主のような格好。 そういえば、この人は謙信公を謙信と呼び捨てにしていたな…もしかして奥さんとか?なら服装が似ているのも頷ける。 「お、お楽しみ中すみません…」 「はい?なんでしょう?」 「お名前を、お伺いしてよろしいですか…?」 意を決して話し掛けた私に、にこやかにその女性は振り返った。それと同時に、兼続殿の背にあった足も地を踏む。 ……名残惜しげな顔の兼続殿は見なかったことにしよう。 「人に名を聞くときは、己から名乗ると…教わりませんでしたか?」 「へ?あ、ああすみません。妙寺 梨です。」 「良い子ですね。では梨、私のことは尊敬の意味を込めて、綾様、とお呼びなさい。」 どうしよう、汗が止まらん。 日本人形のように綺麗な顔立ちと髪で微笑んだ彼女が、何故か恐ろしくて笑顔が引き攣る。……下手をしては、踏まれる。 「あ…綾様は、兼続殿の上司か…何かなんですか?」 「ふふ…可愛い兼続は謙信に仕える身。正しく言えば私のものではないですね。」 「は、はぁ………モノ……。」 兼続殿を爽やかにモノ扱いとは、本当にこの人は物騒だ。関わらぬ方が吉。絶対に。 すると復活した兼続殿が苦笑いの私と綾様との間に割って入り、またも彼女に頭を垂れる。 「御前…!薫陶は嬉しいのですが…此度の薫陶、理由が解りかね…ぐふっ!」 「褒められて直ぐに図に乗ってはなりません。」 「す、すみません御前……!」 メキメキと手甲が音を立てて踏まれている光景に、サッと血の気が引く。人間限界までヒくとこうなるらしい、初めて知ったわ。 そうして「流石に止めないと」と思ったのは、間違いだったらしい。 ……さらに言えば、動揺した状態で口を開く事も、間違いだった。 「綾殿、流石にやり過ぎでは……」 「……殿…?」 「………あ。」 そこから記憶が途切れ、三日後我に返った私は、兼続殿から義戦士仲間の扱いを受けていた。 殿<様
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