「……そんな、口に頬張っちゃあ、いけませんぜ」
「ムウ゛」
「………」
彼女は、食いしん坊。
「支度は、出来ましたか」
「ムー!」
彼女はその大きな目を爛爛と輝かせながら、俺のもとへとやってきた。
到底理解出来ないことだが、彼女には脚がない。
まったくもって不思議なことだった。
…とは言ったものの、俺も人のことは言えない。
俺は、モノノ怪、を切るのだ。
尖んがった耳に、派手な衣装。そして、顔に施された化粧。
普段は薬屋として旅をしてるわけで、荷物は背負った木箱のみ。
そんな旅の中、俺は彼女に出会った。
「…………」
小さな紫の塊が、苦しそうに息をしながら、木の陰に潜んでいた。
「大丈夫、ですかい?」
そっと手を伸ばして触れようとした、が、
「ムウ゛」
警戒された。
「……痛いんでしょう?」
あやすような目付きで、再び手を伸ばした。
「俺は、薬売りなんで、その傷程度なら、治せますぜ」
「…ムー」
「大丈夫、大丈夫」
優しく包んで抱き抱えたそれは、恐ろしく軽かった。
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「あなたは、何を食べるんですかねぇ……」
すっかり元気な彼女は、俺の周りを飛んだり跳ねたり。
少々邪魔くさいが、元気になったことに越したことはない、目を瞑っておいた。
「ムー!」
「……はい、はい(活発すぎやしないか)」
宿屋から見える景色に、桜の木が何本かあった。
「もう、満開、ですね」
「ムー…」
綺麗と言わんばかりに、彼女の目はキラキラしていた。
そして、つっと首元を見れば
「お揃い、ですね」
彼女の首元にも飾られている、その赤い首飾りが、日の光りを浴びてさらに輝いていた。
「ムーウ!」
俺のと自分のを交互に見る姿が、とても可愛くみえた。
「…………団子でも、食べますか?」
「ムッ!」
どうやら、旅のお供がつきそうだ。