食事に呼ばれたかと思えばまた、宿題を手伝わされただけだった。いつも通り彼女の元へ向かおうと歩き出すと、ロードに道を阻まれる。

「ティッキーどこ行くのぉ?」
「仕事、見りゃわかるだろ」
「へぇ〜、やっとその女エクソシスト始末するんだぁ」
「……まあな」

 ロードが指差す方向には俺の手に握られたリスト檻の囚人、セル・ロロンがモップ片手にこちらを見つめている。どうやら早く出たいらしい。檻の中に残るのは、もうその女エクソシストの名前だけだった。全てお見通しと言いたげな顔のロードの脇を通り抜け、真っ直ぐ彼女の元へと向かう。彼女の暗殺なら甘党や双子に頼めばいいものを、運悪く彼女の師匠はクロス・マリアンだった。愛した女を自らの手で殺す、こんな酷いことはあるか。愛だなんていい加減なものは理解出来ないが、自分でも知らぬ内に、確かに彼女を愛していたのだと思う。

 溜息を付きながら煙草を取り出し、椅子に腰掛けると目の前でコーヒーを飲むなまえに話を切り出した。

「なあ、お前を殺せって上から仕事入ってるんだけど。期限迫ってて仲間にも怪しまれてんだよね」
「じゃあ明後日は? 明後日殺してよ」
「……は?」

 まるで明後日の天気を話すような、気の抜けた口調に思わず咥えていた煙草を落とした。お前はどうしたいの、そう言おうと準備していた言葉はものの3秒で用済みになった。逃げたいと言えば出来ると限り逃がしてやろう、一緒に行こうと言われればそうしてやろう。そう思っていたのに、なまえは自ら死を選んだ。一ヶ月前、教団を抜け出したこいつは相当、精神的にきているのかもしれない。

「マジで言ってる?」
「うん、明後日デートしよう。明日はその準備の日にするの、だから明後日」
「お前は死んでもいいの? 俺別にお前のためなら今の仕事やめてやるけど」
「いいの、最期にティキとデート出来ればそれで私は満足よ」

 可憐に笑ったなまえから目が離せなくなり、同時に何かグンと高揚するものが芽生える。こんな時にも自分の中のノアメモリーは反応するのかと内心呆れて苦笑いだ。

「明後日どこ行きたい」
「ティキと一緒ならどこでも」

 なまえと俺に残された期限は二日、明日のうちに逃げたいと思えば逃げられるだろう。だけどこの女はきっとそれをしないという確信があった。

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