随分仲良くなったんだな。三日目から参戦してきた山本はすっかり打ち解けたツナと八重を交互に見る。爽やかな笑顔がまぶしい。彼は中学の頃から並中の女子から圧倒的な支持を得ていた、二年生まで喋ったことがなかったが、八重も山本の人柄の良さはよく知っていた。みんながかっこいいと噂する雲雀や獄寺は恐ろしすぎて理解できなかったが、唯一山本とディーノ先生のかっこよさは理解していた。久しぶりに見た彼は爽やかさとかっこよさにますます磨きがかかったように思う。高校でも女子からモテモテなんだろうな。わざわざ手土産に寿司を持ってきてくれた山本を部屋に通すと三人で勉強を始める、昼過ぎの中庭は水の流れる音と、ししおどしの竹を割ったような音だけが響いていた。

 全くといっていいほど進歩のないツナに対して山本は上出来だった、部活が忙しいだけでちゃんと勉強の時間を確保すれば出来るということが判明した。解き方とヒントを与えるだけで簡単に答えを導き出すので教える側の八重も気持ちが良い。ツナはやってらんないよなーと項垂れる。沢田くんはもう少し頑張ろうと励まして八重はほぼ全ての時間をツナに費やしていた。漸く手が空いて、自分の課題を取り出した時一緒になっていたプリントが目に入る。春休み中に教科書購入を済ませなければいけなかったことを思い出した。期限を確認すると、なんと明日まで。これは大変だと慌ててツナにプリントを見せた、高校はこういうところが適当だった。

「いいんじゃねーか? 八重もこもりっきりで参ってんだろ。全く進歩のねーやつのせいでストレスも溜まってるだろうしな」
「それ俺のことかよ!? でも大丈夫かな……」
「その為にお前がいるんだろダメツナ」
「う、うん!」
「その時は死ぬ気で守れよ」

 なんだかとても重要な話が隣でされているが、大丈夫なのだろうか。ちょっと不安になってきた。並盛の離に建てられたこの古い我が家は繁華街からは距離がある、山や川が近い自然に溢れた立地なせいで並中からは少し遠かった。高校は四駅向こうなのでもっと大変だった。リボーンも快く了承したのでいってきますと障子の向こうに声を掛けて家を出る。祖父は最近少し体調を崩している、もう歳も歳だし季節の変わり目は気をつけてねと心配して言ったら、まだまだ現役だと怒られた。理不尽。くたびれてしまったローファーを引っ掛けて久しぶりの外出である。季節はまだ春だというのに暑くて汗が止まらない、今年の夏は一体どこまで暑くなることやら。とても耐えられる気がしなかった。

「あっつ〜……」

 照りつける太陽のあまりの熱に愚痴をこぼしながら我らが母校、並中のそばを通り過ぎる。天気も良いし自転車に乗ってくればよかったと後悔して一度休憩するために自販機のそばのベンチに座る。中学の頃は友達とよくこのベンチでたむろって、恐怖の委員長に見つからないかと常にはらはらしていたものだ。

「やあ小動物」

 幻覚が見えた。焼きつける熱で陽炎が浮かんで、コンクリートの地面はじりじりと揺れている。これは陽炎が写し出した虚像に間違いない。懐かしい思い出に浸っていたから空耳が聞こえたのかも、わたしも歳かな。ため息をついて顔を上げるとよく見知った顔の人間が立っていた。

 幻覚が、見える。それもとんでもない幻覚だ、これは悪夢かと疑いたくなる。それにしてもその幻覚は妙にリアルでぬるぬる動いて近付いてくる、不敵な笑みまで忠実に再現されていた。八重の記憶にある彼がそのまま春の陽だまりの中に出てきたみたいだ。そんなまさか、だって、彼は。

「幽霊でも見たような顔だね」
「ひ、ひばっ、ひば……」
「なに」
「ひばりさん」

 そうだけど。正真正銘彼だった。この並盛で知らない人間はいない、あの風紀財団の雲雀恭弥である。恐怖の暴君委員長、女にも容赦しない無慈悲な人、中学の時は絶対にそのトンファーのお世話にならないようにできるだけ地味に平穏に、群れずに過ごしてきたおかげで病院に運ばれるようなことはなかった。当時の先輩だった笹川さんのお兄さんと英語教師のディーノ先生はとても勇気ある人だなと思って見ていた。八重はこの男のこの顔を知っていた。ツナや他のクラスメイトたちを「咬み殺す」などと言ってボコっていた時の様子によく似ている。弧を描くようにして形の良い唇が持ち上げられている。全身が粟立つ。沢田くん、緊急事態だよ助けて。おっかない人来た。普通に命が危ない。

「暇でしょ」

 初対面ではないとはいえ、初めて喋ったというのにこの態度。元よりまともな会話が成立することは叶わないと分かっていたが、刃向かったら確実に命を落とすので何度も首を縦に振る。首根っこを掴まれてずるずる並中のほうに引きずられていく、とんでもなくぞんざいに扱われた。八重には雲雀が死刑執行人のように思えた。ツナは一向に助けに来る気配を見せない。見殺しにされたのだろうか、それとも彼がこうなったら誰にも止められないことを知っているのだろうかと思案する。恐らく後者だろう。

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