次の日の月曜日、教室に入るや否や、鯉登くんが食いかかるように詰め寄ってきた。
デジャヴを感じる。
週明けはいつも絡まれてる気がする。
「オハヨ、鯉登くん。昨日はごちそうさま」
「飛鳥。月島から聞いたぞ」
「何を」
「メイポロという物は存在しないのだろう。あれは造語だと言っていたぞ」
「へ?そうなの?」
「なんだ、とぼけてるのか?」
「メイプルシロップって、メイポロの木から出てきた樹液の事なんでしょ?じゃあ、メイプルはどこからくるの?」
「知らん」
「あ、わかった!ミツバチじゃなくて、スズメバチが集めた蜜なんじゃない?」
隣の席で会話していたクラスメイトが「べふっ!」と吹き出すを押し殺した声を出した。
「笑われてるよ、鯉登くん」
「お前が言うたんじゃろが」
「じゃあ、メイプルってどの蜂が集めてくるの?」
「待て、今調べてやる」
鯉登くんは取り出した携帯の画面を素早く操作すると、やがて画面を私に突き出してきた。
【メープルシロップは、サトウカエデなどの樹液を濃縮した甘味料で……】
「ミツバチ関係ないじゃん!」
「飛鳥は学がないな」
「学がないのは鯉登くんも一緒じゃん。知らなかったんだから」
それからしばらく色々言い合っていたが、やがてアホらしくなってきて、会話のベクトルは別の方向へと向き始めた。
「そういえば、あの子どうなの?」
「誰の事だ」
「手紙の子。あれから連絡した?」
「何度かラインはした」
「ふーん。どんな事はなすの?」
「別に面白い事は何も話していない」
「いや、なんかあるでしょ」
気恥ずかしいから話したくないのかと思ったけど、別にそういう訳でもないらしい。
鯉登くんは険しい表情のまま、私の前の席の椅子に腰掛け、机に膝をついた。
「夏休みの話だとか、進路の話だとか…。よう分からん」
「分かんないの意味が分かんない。私と普段話してるのとあんまり変わらないじゃん」
「飛鳥とは違う。会話のテンポというか…わかるだろ」
「はあ、ふっくらとは……」
「なんだ、その歯に物が挟まったような例えは」
「モノがふんわりしてるのに?」
「せからしか」
と、ふざけてみたものの、鯉登くんが言いたい事は十分に分かった。
何度かラインのメッセージなりでやりとりをした事はあるけど、鯉登くんのメッセージは基本簡潔としていて、会話というより箇条書きに近い気がする。
最近だと私も鯉登くんも馴れてきて、会話もスムーズになってきた。
でも、やっぱり傾向が変わるわけじゃない。
(手紙の内容から察するに、女の子って感じの子っぽかったしな…)
「まあ、焦らなくていいんじゃね?」
そう適当に受け流した。