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「私の兄はクラウンなんですよ。ただ、地元系のヤンキーみたいで私嫌いで…」
「俺も前の車はローレルでしたよ。随分、昔ですけど」
「昔でローレル………ってことは6代目のヤツですか?」
「古いのによく知ってますね?C33ですよ」
「よくシャコタンした車走ってましたよね。私が小学生くらいの時ですけど」
高速道路に入ったあたりから、鯉登くんは完全に熟睡してしまった。
私はと言えば、免許を取りたいという話をしたのをきっかけに月島さんと車の話で盛り上がっている。
今、何時なんだろう。
帰省時期が少しずれているせいか、道路に車は少ない。
ほとんどが長距離のトラック、それでも時々普通車ともすれ違う。
「……パーキング入りますよ」
「いいですね」
長い間カーブの少ない道を走っていたせいか、パーキングエリアに入るカーブで体が引っ張られる感じがなんだか気持ち悪い。
「鯉登くん。鯉登くん」
私は鯉登くんの肩をぽんぽん叩いた。
「………む、なんだついたのか?」
「パーキングエリアついたよ。降りる?」
「ああ………ああ?今どこだ?」
「ついさっき県出たとこ、でしたよね?」
「はい」
エンジンが切れ、車内が静かになる。
「私は降りるからね」
携帯用の小さなショルダーバックを片手に、私は車を飛び降りた。
それに続いて、鯉登くんが眠たそうに車を降りる。
降りたのはいいものの、別に差し迫った用事もない。
とりあえず、お手洗いは行っておこう。
やたら広いパーキングエリアには、私たち以外の車はほとんど止まっていなくて、大型用の駐車場にトラックが止まっているくらいだ。
食堂やお土産を扱う道の駅的な店も施錠されて、ガラス張りの壁からは真っ暗で不気味な店内しか見えない。
とりあえず、トイレで用を済ませ、その後は、パーキングエリア特有のやたら豪華で明るい化粧室で意味もなく髪を整えた。
明るい手洗い場から一転、再び夜の暗い景色が目前に広がる。
自動販売機、トイレの自動扉の照明、喫煙所を隔てるガラスで輪郭のぼやけた灯り。
色気のない真っ暗な風景の中で、それだけが夜を照らしている。
こういう静かな夜の風景は見ていると、ほっとするような、でもどこか緊張感のある不思議な気分になる。
車の方をチラッと見たが、まだ2人共戻ってきている気配がない。
側にあったベンチに足を伸ばして腰掛け、意味もなく足をぶらぶらさせながら、小さく口ずさむ。
「………まーるで、ぼくらはエイリアン」
鼻歌と歌声の中間くらいだった声が段々調子ずいてきて、ほとんど歌声になった時。
「……飛鳥。お前、音痴だな」
「え!?」
はっと背後を振り向くと、いつの間にか鯉登くんが背後に佇んでいた。
「い…たんだ。ああ、そう……」
音痴うんぬんより、歌っていたのを聞かれた方が恥ずかしかった。
しまった…、完璧に油断していた。
「ピアノができる癖にどうしてそこまで音痴になれるのだ?」
呆れ、というか単純に疑問で仕方ないという様子で鯉登くんが私の顔を覗き込む。
私は顔が自然とひきつるのを、抑えることができなかった。
「音痴……よく言われるよ…」
「そんな歌唱力で合唱祭は望めるのか?体育祭の後だぞ」
「いいもん。どうせ私は伴奏だから」
そういって、私はぷいと拗ねたように顔を背けた。