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01 : SF



 翌日の終業式では無事に校歌の伴奏を終え、ついに夏休みがやってきた。

 夏休みだーと浮かれる暇もなく、鯉登くんと約束していた熊本旅行がある。


(日焼け止め…と、海いくって言ってたし水着いるかなあ…)


 せっかくだし、夜になったら鯉登くんと花火もしよう。
 
 鯉登くん、ねずみ花火知ってるかな。知らなかったらビビって逃げ回ってる鯉登くんが見れそうだから、これも持って行こう。


 荷造りしながら、なんだかんだで自分がすごく楽しみにしている事に気づいてしまった。

 なんだか敗北感みたいなのも感じるけど、これはこれでいっか。


「……楽しみだなあ」








 出発の日、私は指定された時間18時ちょうどに鯉登くんの家に向かった。



「こーいとくーんっ」



 荷物を背負ったままインターフォンを鳴らすと、やがて鯉登くんが出てきた。



「来たな。まあ上がれ」

「おじゃまします」


 
 鯉登くんの家に上がるのはこれで2回目だ。

 唯一違うのは、リビングのすみにやたら大きくて立派なキャリーケースがあるくらい。



「これ、鯉登くんの荷物?」

「そうだ」

「こんなにいっぱい大変だね。お土産とかが入ってるの?」

「いや、土産は宅配で先に送っちょる。これは全ておいの荷物だ」



 えっ、と声が漏れる。

 たかが自分の実家にいくだけで、この荷物は大所帯すぎるんじゃないだろうか。

 着替えだって向こうにあるだろうに。



「ちょっと持ちすぎじゃない?鯉登くんの家にいくだけでしょ?」


 鯉登くんはちょっとムッとした表情をした。


「飛鳥も月島と同じ事を言うな。これは必要最低限だッ!」



 そう言いながら、鯉登くんはバンバンとキャリーケースの背を叩いた。

 そこまで言われると「ああそう…」としか言えなくなる。



「月島さん…だっけ?出かけてるの?」

「ああ、今日は休みじゃったが夕方に急に用事ができた。20時には帰ると言っておったな」

「あ、そうなんだ。じゃあ結構時間あるね」



 今18時だから、20時まで4時間…。

 映画2本分くらいの時間はある。



「晩御飯は?食べてていいって言ってた?」

「ああ、済ませておけと言っていた」

「何か買いに行こうよ。コンビニあったよね」

「待ってろ、財布を取ってくる」



 そう言って、鯉登くんはリビングを出ると廊下の向こうの個室へと入っていった。

 当たり前だけど、鯉登くんの部屋があるんだ。


(どんな感じの部屋か、全然想像できないな…)


 鯉登くんってストイックな性格だし、趣味とか娯楽とかあるんだろうか。

 好みの傾向も全くわからない。

 全く、どうして私は鯉登くんと一緒に入れるんだろう。



「何をボーッとしている」

「別に、鯉登くんってミステリアスだなあって思ってただけ」

「はあ?」

「行こう。お腹すいてきちゃった」



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