一番苦しい死に方は『圧死』らしい。
分厚い鉄の塊に容赦無く体を砕かれて、それが開く頃には人間の形を失っている。
圧死、轢死、ひき肉……。
曰く、人の形を失う死に方が最も苦しい死に方で、私はこうしてレンタル倉庫の片隅で宝物に囲まれている間だけ、人の形を保っていられるような気がする。
それ以外の瞬間は、まるで息を止めたまま全力で走っているみたいで、無理をすればするほど周囲や外気に削られて、少しずつ自分の形を失っていく。
小学生の時に少ないお小遣いで買ったぬいぐるみ、少しずつ増えていく貯金残高が書かれた通帳、学生の時に道で拾った本物かどうか分からない綺麗なエンゲージリング。
他の人は誰も知らない、大事な私の宝物。
今何時だろう。
そろそろ、時間になる。
(なんの時間だっけ……)
背中に鼓動を感じる。
どっくどっく、脈打っている。
私を抱えて眠る尾形の腕を払いのけ、私はベッドから起き上がった。
(シャワー行こう)
全身、汗と体液でべっとりしている。
湯船の中に入り、カーテンを閉めてお湯を出す。
暖かい湯が全身を流れ、汗や諸々の感触を洗い流していく。
「ふう」
する前に風呂入ってるし、髪は洗わなくていいか。
そう思って、石鹸を掴んだ瞬間、ドアの向こうで物音がした。
きっと、尾形が起きてきたんだろう。
足音はまっすぐ風呂場へと向かってくる。
(トイレかな…)
扉が開く音が聞こえたと思ったのも束の間、尾形はいきなりカーテンを開けて浴槽の中へ入ってきた。
「邪魔するぜ」
「邪魔するぜじゃなくて、何はいってきてんの」
尾形はするりと私の背後に迫ると、指をからめて擦り寄ってきた。
「うわ、ヒゲがちょりちょりする」
「俺が洗ってやるよ」
「い、いらない…!自分で洗える…」
尾形は逃げる私の腕を掴み、石鹸を奪うと私の体に沿わせた。
「ちょっと……」
「普通にするから、動くな」
後ろからがっしりホールドしておいて、動くなも何もない。
悔しいけど、全然動けない。
濡れた体の上を、石鹸が張って動き、泡の流れに沿って尾形の手が私の体を撫でる。
体の曲線を確かめるように、尾形の硬い指先がウエストへ、腰へ、そして胸の方へ伸びる。
「う……。んっ」
おろしたてでエッヂのきいた石鹸が胸の突起を擦り、私は小さく呻いた。
それに反応して、背中の方…、尾形の局部に熱がこもっているのも感じる。
「や、やめてよ……、もうする気分じゃ……」
「何を?俺は洗ってるだけだろ?」
「……………」
そんな事を言われると、私も何も言えなくなる。
私1人だけやらしいみたいなのは嫌だから。
尾形は私の腰を掴んだまま、敏感な部分を掠めるように刺激し続けた。
その度に反応する自分が嫌になる。
これじゃあ、尾形のいいカモだ。
それでも、私は全然平気です、大した事ありませんという見栄をはろうとするが、尾形のゴツゴツした指先から与えられる、妙に官能的な触れ方に逆らえないのも事実だ。
今の私は落城寸前、立っているだけで精一杯だった。
ぎゅっと目を閉じて口を塞ぎ、耐えていると、予想外の場所から刺激を与えられた。
「ふあッ!?……………!」
耳にふーっと息を吹きかけられ、私の膝はあっけなく崩れた。
尾形の腕と、反射的に掴んだ壁に体を預け、私は尾形を睨んだ。
「ふ、普通にするって…、言ったくせに!」
「こっちは普通に洗ってやってるのに、テメエがエロい顔してやがるから、呆れてため息吐いただけだ」
「………う」
言葉を吐く前に、尾形の指が私の局部に触れる。
指の腹でクリトリスを押しつぶされ、私は掴む場所のない壁に爪を立てた。
「……ッ!ん……あ……!」
尾形の腕が私の腕をなぞって、掌を覆う。
「……紬」
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