人気のない店内にピコーンピコーンという電子音が響き渡り、自動ドアがやる気なさげにゆるゆると開く。同時に外のもわっとした熱気が店の中にに流れ込んだ。私もいらっしゃあせー、とやる気の無い声をあげる。

「あ、」

「は?げ、次屋」

「よー、お前なにやってんの」

「何ってバイトだよ、バイト」

「へーお前こんなとこでバイトしてたんだ」

まあね、と答えながら心の中でため息を吐く。このコンビニに知り合いが訪れることは滅多にない。だからこそここでバイトを始めたのだから。あんまり人が来ないから暇だし楽だし、そのくせ給料だってそんなに悪くない。でもまさかそこに突然クラスメイトが訪れるとは。うーん、気まずい。

「次屋こそ何でこんなとこに?」

「あー散歩してたら辿り着いた」

「はあ、相変わらずだねー」

「は?なにが?」

「自覚ないのかいアンタ」

頭にはてなマークを浮かべる次屋に苦笑してみせた。でもコイツはそんなことはあまり気に止めてないようで、なー暑いからアイス奢ってくんねー?とか呑気なことをほざいている。これじゃ富松達も苦労するわけだ。

「ていうかなんで私が奢るのよ」

「いや、ここで逢ったのもなんかの縁ってことで」

「お前さん客だろ、なんか買いなよ」

「お客様は神様っていうだろ?」

「むしろ暑い中働いてる私に何か恵んでくださいよカミサマー」

「ここ冷房効いてて快適じゃん」

お前案外ケチだなー、とか言いながら店内をウロウロし出す次屋。しばらくして戻ってきた奴の手にはアイスがどっちゃり抱えられていた。

「これ全部一人で食べんの!?」

「んあ?そーだけど」

「どんだけアイス好きなんですか」

「だってあちーんだもん」

まあ気持ちはわからなくないけど、と会計を済ませつつ袋にアイスを積めて手渡す。それを見ていた次屋は何を思ったか、あ、と閃いたように呟いて袋からアイスをひとつ取り出した。

「ん、」

「は?」

「これやるよ、スイカバー」

「え、なんで」

「お客様はカミサマだかんな」

「あはは、なにそれ」

「恵んでしんぜよう」

「ははあ、じゃ、遠慮なく」

「おう、じゃーなよしこー」

「は!?」

突然下の名前を呼ばれて思考が停止する。しかもこのタイミングで笑顔ですか。受け取ったスイカバーを握り絞めてしまったけれど、今はそんなことはどうでも良い。呼ばれた名前が頭の中で勝手にリピート再生されて、身体中を熱くさせるのが解った。どうやら自称カミサマはとんでもない爆弾を投下してくれたみたいだ。



(あ、あんた何で下の名前…!)
(名札に書いてあったからよ)
(だあああ!こんの無自覚前髪野郎!)
(なんかお前作兵衛みたいだなー)



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バイト先に突然知り合いが来ると気まずいよねって話。次屋はふらふらしてんのに男前で困る。それはそうとスイカバーって美味しいですよね^^



無自覚のカミサマ
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