短編 | ナノ


  ひとつだけ願うこと


春が終わって、だんだんと暑くなってきたこの頃。
蝉の声と比例するように、一護の周りも騒がしくなった気がする。







始まりは確か、一護の家にトラックが突っ込んだ事件から。

その時くらいから、まず怪我が増えた。
元からよく喧嘩をしてたから怪我は多かったんだけど、そんなの比じゃないくらい。

次によく部屋でひとりで騒いでいる。
もしかしたら、電話でもしてるのかと思うけど、それにしては声が大きい。

最後に転校生の朽木さんをはじめ、茶渡くんや石田くんや織姫とたくさん話すようになった。
無愛想だから、友達ができたのは幼馴染として喜ばしい。


…けど。



「…あ、一護!」

「…なんだ?」

「いや…今帰りなら、一緒に帰らない?」

「悪ぃ、急いでるから。」



何故か私を避けるように、なった。

さっきだって目すら合わせない。
何かしたのか、とも考えたけど、思い当たることはなく。

もしかして、私のことが嫌い…?
いやだって、今まで16年間幼馴染やってきて今さらでしょ。



いろんな考えが頭を巡って、胸が苦しい。
なんだか走馬灯のように、笑い合ってた日々を思い出した。


だって、たつきにも啓吾にも水色にも、言われた。
「一護となんかあったの?」って。

それに決まって私は「わかんない。」と返す。
その解答にみんな困った顔をして黙るのだ。














今日も今日とて、一護に話しかけてみるが、反応は変わらず。
でも、普通に、今だって茶渡くんと笑いながら話してる。

頬杖をつき、ずっと一護を見ていると、悶々とした気持ちが湧き上がる。



「…名前。あんた、顔怖いよ。」



そんなたつきの言葉も今は聞こえない。

何で私だけ避けられなければならないのだ。
何かしたなら言ってくれなきゃ分からないし、直せない。

だって、明らかに私に対する態度は、理不尽だと思う。
あ、なんかムカついてきた。


……よし。こうなったらもう、直接聞こう。
ぶつかって、もし関係が壊れたら、そこまでだったということだ。



ひとり意気込んだ、休み時間だった。













「一護、おかえり。」

「…なんで、居んだ?お前…」



久々に目が合った。
こんな形で合うのは、ちょっとあれだけど、それはいいとして。


私は現在進行形で、黒崎家に居る。所謂、待ち伏せだ。

帰りに話しかけても、また逃げられるのがオチなので、家に先回りすることにした。
所謂、幼馴染の特権ってやつで。

とても快く迎えてくれた、花梨や柚子やおじさんには感謝してる。




「ちょっと話があって。」

「俺このあと用事が…」

「嘘だね。おじさん、今日は暇だって言ってたよ。」

「……」

「時間は取らせないから…お願い。」



懇願にも似た気持ちで一護を見上げる。
すると、少しだけ押入れに視線を向けてから、溜め息をついて、私の正面に座った。
ちょっと視線が気になったが、座ってくれたことに安心する。


小さく深呼吸をしてから、話を切り出す。
もう、単刀直入にいく。



「…私、何かした?」

「…は?」



変な緊張で、声が震えそうになったが、何とか堪えた。
のに、「…は?」とはなんだ。

怪訝な気持ちで、いつの間にか俯いていた視線を上げると、
いつもの倍、眉間にしわを寄せた一護が私を見ていた。


―――目が、合う。



「…は?って何さ。」

「いや、お前こそいきなり何なんだよ。」

「だって、ここ最近私のこと避けてるじゃんか。」

「…誰が?」

「一護が!!」

「はあ!?」



何だその初耳です、みたいな反応は…!
はあ!?はこっちのセリフだから!

そう言いたいのをぐっと堪えて、軽く睨みつける。
少し一護がたじろいだのが分かったが、構ってられない。



「…ちょっと前から、話しかけても冷たいし、目も合わせてくれない。
いきなりそんな態度取られて、もう何がなんだかわかんないよ!
ずっと一緒に居たのに、私のこと嫌いなら嫌い、って…!
な、んで…わ、わたしの、こと、」



―――避けるの…?

そう言った途端、胸が苦しくていろんなものが溢れだしてきた。


…ああ、私、寂しかったのか。
ずっと大好きな一護と、一緒に居れなくて。


視界がぼやけて、その先で、一護が焦ってるのが見えた。

でも、止まらない。泣くつもりなんてなかった、のに。


そう思って目を瞑ろうとした時、ばしん!と結構いい音がした。

びっくりして目を開ければ、目の前には頭を押さえて悶絶する一護と、
何故か転校生の朽木さんがスリッパを片手に仁王立ちしていた。

思わず瞬きするのも忘れてぽかんとしていると、復活した一護が朽木さんに怒鳴った。



「てっめえ…ルキア!!いきなり何すんだ!!」

「たわけ!女を泣かすなど、見損なったぞ一護!!」



一護に負けない迫力で怒鳴り返す朽木さんは、学校でのイメージと違う気がするのだが…
でも、それよりも今は、朽木さんがどこから出てきたのか、だ。



「え?あ、あの…二人とも?」



どうやら口喧嘩が白熱している二人には、私の声は届かないようだ。

すっかり困り果てていると、スカートの裾をちょいちょいと引っ張られた。
ん?と視線を落とすと、足元にライオンのぬいぐるみ。

またぽかんとしている私を他所に、そのぬいぐるみは呆れたような顔をして、
「あの二人の間に入ったら危ねえから、止めときな。」と言われた。

なんて返せばいいのか分からなかったが、とりあえず「はい…」と言っておいた。














数分後。
やっと二人の喧嘩も終わり、少しだけ気まずい雰囲気が流れる。

だって、今この空間は誰が見てもおかしいよね。
最初に私と一護が話してて…そしたら朽木さんとしゃべるぬいぐるみが出てきて…



「(朽木さんと付き合ってたのか?でも何で押入れから出てきたんだろう。
私ずっと居たし、いつの間に…)」



何がなんだか分からなくて、こんがらがってきた。
だんだんと考えがまとまらなくなったとき、沈黙が破れた。



「あー…っと、名前?」


一護の声に反応して、顔をあげる。
ちょっと前まで毎日見てた、少し困ったような優しい表情。

……久々に名前、呼ばれた。


嬉しくて、またちょっと泣きそうだったけど、耐えた。
じゃないと話が進まない。



「…なに?」

「あ、えーっと…まず、こいつらの説明…」

「たわけ!私たちのことより、誤解を解くのが先だろう!」

「…誤解?」



いまだ、おどおどしてる一護に叱咤し、朽木さんが口を開いた。
…誤解って、なんのことだろう。

分かってないのは私だけのようで、「あ、ああ…そうだな。」と一護は頷いていた。



「お前さっき、俺がお前を避けてるって言ったよな?」

「うん。」

「それちょっと違うんだ。」

「…何が、違うの?」



だって、一護は周りの人から見ても私を避けてた。



「避けてたって言えば、避けてたことになるかもしんねえけど…
俺は名前を巻き込みたくなかったんだ。」

「…は?」



巻き込むって…なんだ?
喧嘩とかなら、幼馴染だからって人質になったりしたし、今さらだ。

それに、一護の顔はそういうことを言ってるんじゃないって言ってる。
もっと…危ない感じ、なのか?



「…一護、なにしてるの?」

「あー…これを話せば長くなるから、あとでな。」

「はあ?」



ますます意味が分からない。
あとでって何だ、あとでって。大事な話なんじゃないのか。

しかし一護は、少なくとも今は話すつもりはないらしい。
顔に書いてる。



「それから、俺は名前のこと別に嫌いじゃねえよ。
嫌いだったら、こんな何年も一緒に居ねえ。」

「むしろ大好きだよな!」

「黙れコン!!」



ニヤニヤしながら話に入ってきたぬいぐるみはコンというらしい。
今は一護に踏まれてるけど…


大好き、か…



「一護。」



くいっと一護の服の裾を引っ張る。

いろいろあって、たくさん悩んだし、今も肝心なところは分かってない。
でも、一護の言いたいことは分かったと思う。



「私、本当に寂しかったしむかついたよ。
巻き込みたくなかったっていうのは、嬉しいけど、今さらでしょ?」



目を見て、言う。



「私も、大好き。だから、一緒にいたいの。」



ぽかんとした表情。
まぬけな顔だなあ…って思ってると、視界から一護が消えた。

びっくりして下を見ると、こちらに背中を向けてしゃがんでた。
…何してんの?








(よかったな、一護。)
(大好きだってよ!)
(てめえら、あとで覚えとけよ…!)


ただ、一緒にいたいだけ。




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