短編 | ナノ


  きっと夢中にさせるから



放課後。
ただいま私は、体育館裏にいます。


数人の女子と共に。




「何とか言いなさいよ!」

「そんなこと言われても…」



こういう呼び出しみたいなのをされるのは、初めてじゃない。


まぁ、しょうがないのかな…とか思っているし。
ふわふわと頭に浮ぶのは、幼馴染の顔。



「だいたい!苗字さんは、工藤くんのなんなのよ!」

「だから、幼馴染だって。親同士が仲良くってさ。」

「信じられるわけないでしょ!」



じゃあ聞かないでくれるかな…
そう思ったけど、そんなことを言えるわけもなく。
変わりに苦いため息を出す。


すると何を勘違いしたのか、1人の女の子が勢いよく手を振り上げた。
顔は真っ赤になっていて、どうやらすごく怒っているらしい。


飛んできた平手を、体を反ることで避ける。


私の行動が予想外だったのか、手の勢いをそのままにその子は派手に転んでしまった。



「さ、最低!謝りなさいよ!」

「嫌だよ。」

「はぁ!?」



ここぞとばかりに、ぎゃーぎゃーと非難してくる2人。
そんなことより、転んだ子は助けなくていいの…


ちらっと視線を送ると、その子は今度は恥ずかしさから顔を真っ赤にしていた。


きっと、この3人の関係性はこの程度なのだろう。



「あのさ、」

「なによ!」

「私に構ってる暇があるなら、本人のところに行ったほうがいいんじゃない?」



これは、私が呼び出される度に思うこと。


好きな人の近くにいる子が目障りとか邪魔とか思うのは、恋していたらあることだろう。
けど、そのことで呼び出して文句言ってる暇があったら、アピールでもなんでもしに行けよってね。



「それに、こんなところ新一に見られたらどうするの?」

「うっ…」

「それは…」

「怒ると思うけどなぁ…」



これは嘘。


新一も蘭も、私がたまに呼び出しをされてることは知ってる。
なんとかしようか?って言われたことはあるけど、それは私が遠慮してるのだ。



「お、覚えてなさいよ!」



まるで、悪者の捨て台詞みたいなことを言って3人はいなくなった。
はいはい…もう呼び出さないでくれると嬉しい。


面倒くさいことがやっと終わり、ふぅとため息が出た。


すると、横からがさがさという音が聞こえた。
ん?とそっちに目を向けると、少し気まずそうな顔をした新一。


あれ…



「もしかして聞いてた?」

「あ、あぁ…少しな。」



まぁ、いい気分ではないだろう。
こういう場面に出くわすのは初めてだろうし。



「……」

「……」



き、気まずい・・・気まずいぞ…


私の隣に歩いてきた新一は、そのまま黙りこくってしまった。
ちらっとその横顔を見ると、何かを考えているようで。


沈黙に耐え切れなくなった私は、何か話題を振ることにした。



「あ、あー…もうすぐテストだね。」

「名前。」



真剣な声色に、心臓がはねた。


な、なんだよ…テスト話題はタブーだったのか?



「な、なに?」

「俺たち、付き合うか。」

「…は?」



声と同じくらい真剣な顔で見つめてくる新一。


…いや、いきなりなんですか。
ムードも何もない…


呆けてる私に、今度ははっとしたような顔をして「い、いや!そういう意味じゃなくて…」とか焦り始めた。
じゃあ、どういう意味だよ…



「お、お前が俺の…か、彼女、になれば、呼び出しも減るんじゃねぇかと思って。」

「あー、なるほどね…やめとくわ。」

「はぁ!?」



私の言葉に、盛大に新一は不満をもらした。
不満なのはこっちだっつーの。



「そんなお情けみたいな付き合いはしませーん。」

「バーロー!俺は本気で…!」

「本気で?」



ぐっと詰まったところに、追い討ちをかける。
すると、少し恨めしそうに睨んだ新一は、私に腕を伸ばしてきた。


え、と思ったときにはもう、距離は0で。


目の前には、ほどよく鍛えられているのが分かる胸板がある。
そこから聞こえてくる鼓動が早くて、きっと私も同じだろう。



「な、にして…」

「これなら、いくら鈍くても分かんだろ。」

「え…」

「さっきの、呼び出しがどうこうっていうのは嘘だ。」



私を抱きしめる力が強くなった。
耳元で、新一が小さく息をすったのが分かった。



「…名前が、好きだ。だから、」

「ちょ、ちょっと待った。」

「あぁ…?何だよ。」



言葉を遮られて、不満そうだけど…
ごめん、ちょっと待ってほしい。



「ど、どこが?」

「はぁ?」

「私のどこがその…す、好き、なの?」



今まで普通の幼馴染だった。
それがいきなり告白とか…ドッキリかとか思うじゃん。


私の言葉に、新一は呆れた声で「やっぱりか…」と呟いた。



「俺さ、結構アピールしてきたんだけど。名前に。」

「…え!嘘だ!」



頭叩かれたり、頬をつねられた記憶しかないぞ!


そう言うと、またまた呆れた声で「もういい…」と言われた。



「どこが好きか…だっけ?」

「え、うん…」



少し考える素振りを見せた新一は、1拍置いてから答えた。



「…全部、とかはなしか?」

「え。」

「思いつかねぇよ…片思い歴なげぇし。」



少し照れたような声に、思わず真っ赤になってしまった。


どうやら、ドッキリとかではないらしい。
そう思うと、抱きしめられているこの状況をひどく意識した。



「で、続きな……俺と、付き合ってください。」



耳元に落とされた言葉。
まさか新一から言われるなんて、思ってもみなかった言葉。


ずっと宙ぶらりんになっていた自分の腕を、新一の背中に回してみる。
すると、ビクッと体が揺れたのが伝わった。



「よ、よろこんで。」

「…え?」



肩を掴まれ、ばっと新一が顔を上げた。
そこには、ただただ驚いている顔。



「お前…本気か?」

「う、うん…まだ新一をそういう意味で好きではないけど…」



だって、本当にいきなりで。
そんな風に意識したことがなかったわけではないけど。



「でも、新一なら好きになれそうっていうか…好きになりたいって思ったの。」



私の言葉に、目をまんまるにした新一。
次の瞬間には、また力強く抱きしめられていた。



「断られると思ってた。」

「え、そうなんだ。」

「そりゃそうだろ。」



ふぅ、とため息をついた新一は、次は不敵には笑って言った。








「…絶対、惚れさせてやるから。」













(わ、楽しみだなぁ。)
(余裕なのも今のうちだからな。)









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