短編 | ナノ


  呆れるほど、鮮やかに




おはようございます、私です。

因幡探偵事務所で働き始めて早数年。
毛フェチを中心に今までもいろんなことがあった。それはもう本当にいろいろ。

でも、かわいい助手が2人もいて楽しい日々を送っている。



「なんでだよぉ…」



今日は朝から天気もよくて、清々しい気分で…



「どうしてこんな…うぅ…」



久々に皆で掃除でも…



「なんで無視するんだよぉ!名前!!」

「あーもう、うるさいなぁ。」

「うるさいって、お前…謝れ!髪の毛と俺に謝れ!!」



さっきから泣きながら私に詰め寄って来るのは、因幡洋。
いろいろと問題を持ってくる毛フェチだ。



「意味分かんないよ。」

「うっとうしいですよ。」

「リンスみたいにべったべたですね。」

「お前ら皆ひどい!!」



こいつが泣いている原因は、私にある。納得は行かないが…



「もういい加減にしなよ、因幡さん。名前さんも大人なんだから、髪の毛くらい染めるって。」



そう、理由は私が髪の毛を染めたからだ。

私の代わりに反論してくれる圭に、うんうん頷く。
すると洋は信じられないものを見たような顔をして、今度は圭に詰め寄っていった。



「何言ってんだ、圭!!髪の毛を染めるっていうのはだな…」

「あーはいはい。もういいよ、その話は。」



また始まったよ…
ふぅ、とため息をつきソファの背もたれに体を預ける。

視界にかかった自分の髪の毛をつまみ上げると、本当に染めたんだなぁと実感した。
いやまぁ、染めたんだけどね。約2時間、座りっぱなしはきつかった…

あの時を思い出してげんなりしていると、とんとんと肩を叩かれた。
振り返れば見慣れた金髪。



「ん?どうしたの優太。」

「名前さん、何で染めちゃったんですか?」



先生が怒るの分かってたでしょ?と言われ、あーと唸る。
確かに怒られるだろうなとは思ってたけどね。



「しいて言うなら、怒らせたかったのかな。」



意味が分からない、という風に首を傾げる優太を見て、苦笑いがこぼれる。
残念ながら、私にも分からないんだよ。

友達に勧められて、勢いでやったっていうのもあるけど、それよりはなんだか…



「名前!!」

「うわ!何…」

「染めちまったもんは、しょうがねえ…」

「あ、納得したんですか?」

「珍しいですね。」



いや…待ってくれ、2人とも。洋の目つきがおかしい。
じりじりと近寄ってくる姿に、僅かに悪寒がした。



「ひ、洋…?」

「それなら俺が染める!!」








………は?








思わずぽかーんとしていると、ガシッと腕を掴まれた。



「俺のポリシーに反するが…そんな、どこの馬の骨とも知れない液体に染められてるのは許せん!!」

「いや、意味が分からない!!」



すごい形相で告げられた言葉に、こっちも同じテンションでツッコんでしまう。
ぐいぐいと引っ張ってくるのを、いやいやと踏ん張る。


もう、あんな地味に辛い時間を過ごすのはいやだ!


すると、ふっと力が緩んだ。
疑問に思い、洋に視線を向けると、とても真剣な顔。



「名前。」

「な、なに…」

「お前はもとの髪色のほうが似合ってる。きれいだし、さらさらだ。」

「え、ちょ、」



面と向かって褒められると、さすがに照れるんだけど…
耐え切れなくて、ふいっと目を逸らす。
しかし、間髪いれずに伸びてきた手によって、それは阻止された。

両頬を掴まれ、息が詰まる。

圭が「ちょ、ちょっと因幡さん!?」と言っているのが、横目で見えた。



「それに…」

「…っ」

「自分の髪の毛に、申し訳ないだろ!!」

「…は?」



本日2度目のぽかーんだ。
さっきと変わらない真剣な顔で、やつは続けた。



「もとがすごく良い髪の毛なのに!名前!!お前はその素晴らしさが分からないのか!!」

「……」

「生まれ持った毛っていうのはな、特別なんだよ!それは古から…」



はぁ、と盛大にため息がもれた。
何だこいつは…と私の呆れた視線にも気付かずに延々と話は続く。

とてつもなく帰りたい気分だが、両頬を掴む手は離れないし。

とりあえず、すぐ目の前の口を手で塞ぐ。



「もがもが…」

「はいはい、私が悪かったですよ…で、染めてくれるんでしょ?」



私がそう言うと、すぐさま力強く頷いて準備をしに行った洋。

このすさまじい脱力感はなんだ…






(名前さん、大変だね…)
(よく付き合えるよね…)








初ギャグです。
いかかでしょうか…



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