短編 | ナノ


  きみがとなりにいる


※微原作沿い?







私の大好きな布団に入って、もう1時間。
全然寝付けずに、何度も寝返りを打つ。

今日は、すごくいいことがあったのだ。



―――…うちのバレー部にエースが帰ってきた。



それは衝撃というかなんというか…いろいろ複雑な思いもあったけど。
特に3年生は、嬉しそうで悲しそうだった。

試合をして、何だかチームが元に戻ったような、力が倍になったみたいに感じて…
とてつもなくワクワクした。


だから、寝れない。
興奮して、まだまだあの雰囲気を感じていたくて。

…正直、もう一つ。
気になることがあるのも、理由の一つなんだけど…



―――…〜♪



うーんと考えていると、携帯が鳴った。
時計を見ると、もう日付は変わっている時間。



「?…もしもし。」

『あ。もしもし、俺だけど…苗字?』

「東峰…?」



電話の主は、今ちょうど考えてた人物。
今日戻ってきたエース…東峰だった。



『…悪い、寝てたか?』

「や、大丈夫だけど…どうしたの?」



電話越しで声を聞くのは久しぶりで、懐かしい気分になる。
こっちに気を使っているのか、おどおどしてるみたいだ。
そのことに少し笑えた。



『今日、久々にボール触ってさ…思い出したよ。』

「…ん?」

『ボールの重さも…皆で戦うってことの楽しさも。』



噛みしめるように出された言葉に少し涙が出そうになった。

東峰がバレーボールから離れた理由はよく知ってる。
その時も、こうやって電話で話したんだっけ。
…あぁ、もしかしてその時以来じゃないかな?



「…前とは、大違いだね。」

『え?』

「忘れちゃった?…東峰とこうやって電話で話すの、」



――…東峰が、バレーボールから離れたとき以来だよ?

そう言うと、東峰がうっと詰まったのが分かった。
気まずそうな顔をしてるんだろうなあ、と思いながら言葉を続ける。



「あのときはどうなるのか不安だったけど、今こうやってバレーして、楽しそうな東峰の声が聞けてよかった。」

『苗字…』

「まぁ、相変わらずへなちょこだけどね。」

『うっ…』

「あはは、冗談。」



こうやって軽い感じで話すのも久しぶりで、楽しい。
そんな感じで笑っていると、ふと電話の向こう側が静かになった。



「どうしたの?」

『…本当は今すぐ会いたい。苗字に。』

「っ、え…?」



いきなり低く、少し掠れた声で言われて驚く。
息をのんで続きを待っていると、はっとしたような声が聞こえた。



『あ…や、ご、ごめん!!あの、今のは違うんだ…!!』



あ、とか、う、とか言ってる東峰に思わずため息が出る。
だからへなちょこって言われるんだよ…

もう一度息をついて、まだパニクってる向こう側に声をかける。



「東峰。」

『は、はい!』

「どっち。」

『へ?』

「会いたいの、会いたくないの?どっち。」

『…えぇ!?』



私の言葉に盛大に驚く東峰。
その直後、ぐっと詰まった声が聞こえた。

もっとパニクるかと思っていただけに、ちょっと予想外の反応。

でも、これくらいははっきり言ってもらわないと!!



じっと待っていると、観念したような声。






『…あ、会いたい……です。』






やっと言ったか…
ふぅ、とため息が出たのは仕方ないことだろう。

私のため息に反応して、東峰がびびってるのが分かる。
また『いいや』とか『違う』とか言われると面倒くさいので、被せるように言う。



「じゃあ、近所の公園に集合ね。」

『え…はぁぁ!?』

「どうしたの?」

『どうしたのって…お前、時間見ろ!!もう0時越えてんだぞ!?』



時計を見ると、確かに日付が変わってる。
でも私は言いたい。
だからなんだというのだ。



「私も、会いたいの。」

『はぁ!?』

「東峰だけじゃなくて、私だって負けないくらい、会いたいの。」

『……え?』



黙った東峰に、少し笑う。
とりあえず、うだうだ話してる時間がもったいないので呼びかける。



「幸い家も近いしね。はい、決定。おっけー?」

『…お、う。』

「遅れたら罰金ね。」



そう言って電話を一方的に切ってしまう。

ちゃんと約束通り、東峰は来るだろう。
よし!私も早めに行こう。

今日、久しぶりに見た、楽しそうな活き活きした笑顔だった東峰の顔を思い出す。
あの笑顔を今から独り占めしにいくんだと思うと、胸が躍った。









(それはとても素敵なこと。)






主人公はまだ東峰のことを好きだと自覚していません。

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