短編 | ナノ


  ベタで甘い恋はいかが?


放課後。
授業のときの気だるげな雰囲気はどこへやら。
本日最後の授業が終わった途端、みんな息を吹き返したかのように元気になる。

各々が帰る準備をしたり、部活に行く準備をしたり…
私は部活には入っていないので、朝より少しだけ重くなった鞄を持って、教室を出る。


今日は私の誕生日だった。


クラスメイトや友達にたくさん祝ってもらって、プレゼントをくれる子もいて。
その度に「自分って幸せ者だなあ…」と実感した。

その子たちの誕生日は、私も盛大に祝おう!と心に決めたとき、後ろから大声で名前を呼ばれた。
少しビクッとして振り返ると、元気に手を振って走ってくる見慣れた姿。



「あ、リコ。」

「はあはあ…名前、帰るの早すぎでしょ。」

「そうかな…だ、大丈夫?」



いまだ息切れをしてるリコを見てると、少し申し訳なくなった。
私の言葉に「ふう…大丈夫よ。」と言うと、満面の笑みで、ずいっと手を差し出してきた。

何だ?とリコの手元を見ると、綺麗にラッピングされた包み。



「はい、プレゼント!なかなか渡しに行けなくてね。」

「わ、ありがとう!」



嬉しくて、こっちも笑顔で答える。
両手で受け取って、潰れないようにそっと鞄にしまうと「それで?」と言われた。
ん?と視線を向けると、興味津々です!という顔をしたリコ。
……「それで?」って?



「それで?って…何?」

「何って…日向よ、日向!何を貰ったの?」

「…何も、貰ってないけど。」

「はあ!?」



リコの言う日向とは、日向順平。
誠凛バスケットボール部の主将で……私の、彼氏だ。



「何も貰ってないって…え、教えてないの?」

「や、教えたけど…結構前だし、忘れちゃったのかも。」



私の言葉に、まだ文句を言ってるリコに苦笑いしつつ「試合近いんでしょ?」と言ったら「そうだった!」と言って、走って体育館に向かって行った。
去り際、少しだけ名残り惜しそうだったから、多分気を使ってくれたんだろうと思う。


正直、私も触れられたくないことだ。
忘れられたのかな…と思うと、少し気分が暗くなる。
じゃあ、自分から言えばいいじゃん!と言う人も居ると思うけど、何か催促するみたいで嫌だし。



「はあ…駄目駄目。ネガティブになってるー!!」



周りに人が居ないのをいい事に、大きな声を出して気を紛らわす。
よし、と意味も無く意気込んで玄関へ向かう。
みんながくれたプレゼントを開けるのが、楽しみだ。










いつもより豪華な晩ご飯を食べて、お風呂に入って、さあプレゼントを開けよう!となったとき。
携帯が光っていることに気付いた。
ずっと部屋に置きっぱなしだったそれを開くと、着信が何回かあったみたいで。
発信元は…



「順平…」



ぎゅっと胸が痛くなった。
今までも散々連絡は取ってたのに、何だか妙に緊張する。

早く電話しなきゃ、と一人でアワアワしていると、いきなり手の中の携帯が震え出した。
そっとディスプレイを見ると、さっき見たばかりの名前。

タイミングがばっちりすぎて驚きながらも、すぐさま電話に出る。



「も、もしもし…」

「あ、もしもし。名前か?」



聞き慣れた声に、少しだけ安心した。
向こうの順平もほっとしたような声色で「どうしたの?」と聞くと「いや…」と少し言葉を濁した。
その様子が珍しくて?を浮かべていると、ごほんと咳払いが聞こえた。



「カントク…あ、いや、相田に聞いた。今日、誕生日なんだろ?」

「え…うん。」



リコ、順平に言ってくれたのか。
少し驚いていると、順平が黙ってしまった。
もしかして気にしているんだろうか、と思って少し焦る。



「あの、順平?」

「なんだ?」

「試合も近くて順平忙しいんだし、私のことは気にしないで!」



少しだけ、声を明るくして言うと「だアホ!」と怒られた。
ええ!何で怒られないといけないの!?と思っていると「あー…悪い。」の声と共に部屋の窓に何か当たった。




「……今、外出れるか?」












「順平!どうしたの?」



駆け足で外に出ると、玄関横の塀にもたれかかってる姿を見つけた。
すぐさま駆け寄ると、ぽんっと頭を撫でられて、何かを渡された。



「これ…」

「誕生日プレゼント。」

「あ、ありがとう…」



かわいいラッピング。
これを順平が買ったのかと思うと、似合わなくて少し笑ってしまった。

そんな私を見て、同じように笑った順平は「…名前。」と私を呼ぶと、少し気まずそうに視線を逸らした。



「本当は…ちゃんと誕生日は覚えてた。プレゼントも買ってたし。」

「え、そうなの?」

「おう…ちょっとタイミングが、な。」



「うああ…情けねえ!」と頭をガシガシと掻き毟ると「じゃ。」と行って、私に背を向けた。
少し耳が赤くなってるのが見えるから、照れてるんだろうと思う。

嬉しいのと愛しさが相まって、思わず順平に後ろから抱きついた。



「うおっ!お、お前…」

「順平、ありがとう!大好き!!」



えへへーと笑いながら、肩口に頭をグリグリ押し付けてると、頭をまたぽんぽんっと撫でられた。
視線を上げると、優しい目をした順平。



「誕生日おめでとう、名前。」









(幸せをありがとう)







何も言うまい。

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