音に釣られて



「…火神さん火神さん。」

「んぁ?」

「…テツが。」


テツが死にそうです。





誠凛高校男子バスケ部は、今日も相田リコの厳しいトレーニングをしていた。

一番に脱落するのはいつも体力のない黒子で、それを見て凉子がからかうのが最近の日課となっていたのだが…。


それは柔軟のときに起こったのだった。


「おい黒子、ちょっと手伝え。」


たまたま空いていたのが黒子しかいなかったため、不安ではあるが仕方なく火神は黒子に柔軟の相手をしてもらうことにした。

見かけによらず負けず嫌いな黒子は身長差、体重差をはねのけて手伝うと言ってしまった。


それがいけなかった。



「…っ」


「お、おい黒子!しっかりしろ!」


今二人の姿を説明すると、二人が背中あわせになって相手の腕と自分の腕を組み、火神が黒子を背中で持ち上げている状態…といえばお分かりいただけるだろうか。

持ち上げる方の火神からすれば、黒子は軽くて柔軟になるかわからないのだが、黒子からすればかなり必死な状態だ。

火神と身長差がありすぎるため、黒子は完全に火神の背中に乗って足がぶらぶらな状態なのである。

これが以外と辛いものなのだ。




しかも次は黒子が火神を持ち上げる番。




「いや、テツ。流石にやめといた方がいいぜ?」

「…やります。」


凉子の心配も露知らず、黒子は火神を持ち上げた!

そして、つぶれた。



「うああああテツうう!!」

「黒子!?」


凉子も火神も大慌てで黒子の様子を見た。


「…だ、大丈夫…です」


いや、絶対大丈夫じゃないだろ。

明らかに潰れてたぞ。









そんなハプニングもありながら、どうにか柔軟が終わった。

今日はミニゲームをするらしい。


「よし、今日はまず1年生だけでミニゲームをしてもらうわ。」

「1年だけ…ですか?」

「でも5人しかいませんよ?」


リコの突如な発案に戸惑う1年組。

確かに黒子、火神、降旗、福田、河原の5人しか1年はいない。

しかもチーム分けによっては火神と黒子を敵に回すことになるのだから、1年3人組は冷や汗ものだ。


「そうなのよね、だから2年からフォワードの小金井くんを入れるわ。チームは火神くん、福田くん、河原くんの3人と、黒子くん、降旗くん、小金井くんの3人でいくわ。」


各ポジションがダブらないようにリコが考えたチーム。

これで3on3のゲームを始めようとした瞬間。


「あの、私小金井先輩の代わりにでていいですか?」


ドリンクを作り終えたばかりの凉子がリコに進言してきた。

突然の言葉に黒子を除いた一同は目を丸くした。


「え、凉子ちゃん?確かにバスケ部に選手として入ろうとしていたのだからやりたい気持ちはわかるけど、他のメンバーは全員男子よ?大丈夫なの?」

「あ、はい。そこは大丈夫です。」


目をパチクリさせながらリコは凉子に問うが、一方の凉子は当然の如く頷く。

正直凉子がバスケをしている姿をみたことがない一同は不安で仕方がなかった。


だが、凉子の真剣な目に負けたリコが「わかったわ。じゃあ小金井くんの代わりにでてみて。」と言った。




「…凉子さん、大丈夫なんですか?」

「うん、ミニゲームだし大丈夫っしょ。」


そんな中、黒子だけは別の心配をしていた。





凉子の柔軟が終わり次第、スタートすることとなった。

ベンチに座って凉子の様子をどこか心配そうに見つめる黒子を発見したリコは、彼の隣に座って凉子のことを聞いてみることにした。


「ねえ黒子くん。凉子ちゃんってバスケできるの?」

「…できますよ、かなり。スモールフォワードを得意とするので、同じフォワードの小金井先輩が出ると聞いて居た堪れなくなったんでしょうね。」


スモールフォワードとはドライブ、シュート、リバウンド争い、速攻などオールラウンドな能力が要求されるポジションである。

いとこの黒子ができるというのだから期待はできるだろうが、この時点ではまだ誰も凉子の力を予測することはできなかった。









「それじゃあ始めるわよ。」

凉子の準備ができたところでリコは声をあげた。


「制限時間なし、先に20点取った方の勝利!それじゃあ、始め!」



リコの合図と共に日向がジャンプボールを高くあげた。









音に釣られて





(試合、スタート!)






…………………


長くなりそうなので後編につづくパターンです。







(20120723)



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