大切なキミと君と




「・・・」

「・・・」

冷たい空気と沈黙が続く黒子と凉子。
その様子を焦りながらも見守るバスケ部メンバー。
小金井と水戸部がその場の空気をなんとか和らげようと日常会話を少し大きめな声で話すも(実際話すのは小金井のみで水戸部は焦りつつもいつもより良い笑顔を作りながら聞いていただけだが)、結果は報われず再び重たい沈黙が続いた。

その冷戦が始まったきっかけは30分前のとある会話にあった。



その日、2年生のみ放課後に特別集会があった為、1年生はその間自主練をするということになっていた。
とりあえず授業中ずっと座っていた為に固まった体をほぐそうという話になり、1年メンバー全員でランニングをしようという降旗の言葉で体育館内を走ることにした。

凉子も走ろうとしたのだが、そこでしばらくボールを磨いていないことに気づき、1人で体育館内にある倉庫に向かった。
倉庫内は物で溢れかえっているため狭く、更に掃除担当がサボっているのか埃だらけだった。

「・・・相変わらず汚い」

凉子はそう小さく呟いてから気合を入れるために着ていたジャージの袖をまくり、ボールの入ったカゴを表に出す作業に取り掛かった。
毎日必ず使っているボールは当然埃もほとんどなく、一通り軽く磨くだけでいいだろうと判断して布を取り出した。

しばらく磨いていると、ランニングが終わったのか火神を筆頭に皆、凉子のもとまでやってきた。

「お前、今日は走らないのかよ」

「うん、今日は清掃担当になろうかなと。ランニングお疲れ」

「おう。相変わらず黒子の奴既にヘロヘロだぜ。毎回これでよく練習できるよな」

「まぁ、テツは負けず嫌いだからね。あれでも成長してるんだよ、昔は私より体力なかったし」

そう凉子が苦笑いしながら火神に話していると、横から黒子が眉間に皺を寄せながら会話に混じった。

「凉子さんよりはありました」

「なかった。中1のとき100m走勝ったし」

「中2での500mは勝ちました」

「私がテツに負けるとかありあねーって」

「そんな大口叩けるぐらい体力ないでしょう」

「お前だけには言われたくねーよ!」


まるで子どものケンカのように2人は突如言い合いを始めた。
お互い昔から知っているからか黒子も凉子も言葉が辛辣で、その恐ろしく凍りきった空気に1年組は目を見開いてびくついた。

「おい黒子!凉子!お前ら少し落ち着け!」

「火神くんは黙っててください」

火神が止めようと声を出すも、黒子の冷たい発言と凉子の睨みで“こいつら頑固だった…”と気づかされ、黙るしかなかった。































ささいなことから始まった彼らの喧嘩はとにかく長く、めんどくさかった。

2人とも頑固で、自分からは絶対に謝らないと決めてしまったらしくクラスでも部活でもとにかく話さなかった。

日向からの先輩命令で火神は2人を元に戻そうと努力はしているのだが…。


「黒子、入船、飯食おうぜ」

「ごめん、他の子と約束あるから」

「……………」


このように2人を揃えようとすると片方がどこかに行ってしまい、話をつけるタイミングすらなかった。

火神は苛立ちを抑えつけるかのように自分の髪を乱暴にぐしゃぐしゃとした後、ため息をついて席にドカリと座った。
その後ろの席の黒子は相変わらずなにを考えているかわからない顔をしながら静かにパンを加える。

「なぁ。お前らってなんでそんなにめんどくせーの?」

「めんどくさいって失礼ですね」

「仲直りしたいんだろ?」

「………」

否定も肯定もしない黒子の反応を肯定と取り、火神は再び口を開く。

「俺が部活のときに時間作ってやるから、仲直りしろ」

「……………」

「し・ろ・よ?」

「わ…わかりまひた」


相変わらず無反応だった彼の頬を引っ張りながら言い直すと、折れた黒子がそう約束した。















「…ということになったんで、あいつらを少し2人きりにしてほしいっす」

「……なんっつー展開だよ」

放課後。
黒子には少し遅れて来いと言って素早く体育館に向かった火神は、授業数の違いの為、既に集まっていた2年生達にわけを話した。
それを聞いた日向がため息をつきながら呆れる。

「俺だってよくわかんねーよ…です」

「面白いじゃない」

「は?」

1人目を輝かせながら呟いたリコに伊月は目を丸くして驚いた。

「普段冷静でやけに大人な2人がこんな些細なことで喧嘩して、しかも頑固だから謝れない。でも謝りたい。そんなもどかしい状況を見ずになにを見るというの!!」

「カ…監督…」

もう一同呆れるしかなかった。





リコの提案により、凉子には少し選手達と会議があるから体育館の清掃をしといてくれと言って体育館に居させ、そこに黒子が行くということになった。

一方の凉子は選手達の会議に交われない不満やらで口には出さなかったが眉間にシワを寄せながらリコの話に頷いた。
もちろん黒子が後から行くことは秘密にしてあるので、リコ達が出ていってから凉子は何も疑わずに1人せっせと体育館を磨いていた。


「選手だけ…か」

思い出すのは過去の、まだ帝光中で皆とバスケをしていた頃の記憶。
それを思い出す度に凉子の心が痛んでいたのだが、いつもはそれに即座に気づく黒子がカバーしていた。

だが、今の凉子の隣に黒子はいない。


凉子は持っていたモップから手を放し、その場でうずくまった。


「テ、ツ…っ、」

カラン…と響き渡るモップが倒れる音と共にドアが開く音がした。

ドアを開けた本人である黒子は、中を覗くなりうずくまっている凉子を見つけて駆け寄った。


「凉子さん…!どうかしましたか!?」

うずくまったままの凉子の肩を掴んで顔を向かせようとする。
するとパッと見上げてきた凉子に、黒子は顔を歪ませた。

「テ、ツ…テツ、テツ…!!」

凉子はしゃがんでいた黒子の着ていたジャージを掴んでしがみつくかのように彼の膝に顔を寄せる。

「ぉ…ぃて、行かない、で…」

彼女の絞り出すかのような声で呟かれたその言葉は、黒子に重くのしかかった。

もう決しておいて行かないとあの時心に誓ったじゃないか。

そう思い、小さく震える彼女を引き寄せて抱きしめ、その頭を撫でた。


「すみませんでした。大丈夫です、大丈夫ですから。僕はここにいます」

「テ、ツ…?」

再び見上げて黒子の顔を見た凉子の目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。
それを指で拭うと、凉子は一瞬安心したかのように小さく微笑んだ後、そのまま黒子に倒れ込むようにして気を失った。

「…すみません、でした」

彼の顔は酷く後悔していた。













「…見ちゃまずかったんじゃね?」

「………」

一部始終を見ていたリコ達は後悔と同時に違和感を感じていた。

黒子と凉子は別に付き合っているわけではない。
だが、どこか凉子は黒子に依存している節があった。
最近は変わってきたが、黒子の前でしか笑わず、心を開いていなかった彼女とそれを親のように心配し見守っていた黒子。


2人の間にはなにかがある。
そしてそれをどうにかしなければ今の凉子の不自然な何かは治らないのだろうと、なんとなく皆感じていた。


リコ達がその場で沈んでいると、ドアが開きそこから凉子を背負った黒子が出てきた。
先ほどの出来事は見られていたのだとそこで気づいた黒子は、気まずそうに立っている彼らに呟いた。


「…凉子さんを保健室に連れて行きます。部活は早退させてください。…後日、お話します」

それだけ言うと黒子は一礼をして保健室へと向かっていった。







大切なキミと君と






(凉子さん…)



……………………………………


久しぶりに更新しだしたら突然シリアスになった(笑)



(20121130)



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