よく知らない君のことを






夜10時。

…バスケ、したいなぁ。


ふとそう思った凉子は家を抜け出し、ストバスへと向かった。
途中お腹が空くかもとコンビニに向かったら、見知った顔があった。


「…あれ、火神?」

「入船?なんでこんな時間にいんだよ」

「そっちこそ」


普段あまり話したことのなかった2人はなんとなく気まずい雰囲気の中、手探りで状況を把握しようとした。

「俺は腹減ったから夜食買いに来たんだよ。で、お前は?」

「ちょっくらストバスに」

「ハァ!?」

いい加減夜も更けてくるこの時間、女である凉子が1人でストバスへ行くという事実に火神は目を丸くした。

「お前時間考えろよ」

「まだ10時過ぎでしょ?ちょっとだから大丈夫だよ」

「んなワケねえだろ!ちょっと待ってろ!」

彼はそう言うと手にしていたカゴに私が持っていたおにぎりを入れてレジへと向かった。
そして会計を済ませると私の腕を掴んで外へとでた。

「俺も一緒に行ってやるから、早めに済ませろよ」

「…あ、あぁ。ありがとう」

突然の彼の発言に少し驚きながら、私たちはストバスへと向かった。





「お前、こんなのバレたら黒子に怒られるんじゃねえの?」

ストバスに着いてボールを出していると、火神が凉子にそう訪ねてきた。

その言葉に凉子は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

「テツは私の母親かよ」

「それに近い雰囲気はあるな」

「…マジっすか」

普段から黒子は凉子のやることなすこと全てに関わっている気がしていた火神はそれを思い出しながら呆れる凉子に言うと、凉子は少し切なそうに笑った。

「…まあなんて言うか、私少しだけ体が弱いんだ。だから心配性で頑固なテツが私を見張ってるというか、なんというか…」

“とりあえず心配しすぎなんだよ、テツは”と笑顔で言ったあと、3P位置からシュートをした。
そのボールは綺麗な円を描いてネットに入る。
火神はそんな彼女のボールさばきをみて、そういやキセキの世代ともバスケしていた程の実力だったなと思い出し、軽い1on1をしようと持ちかけた。

「別にいいけど、あまり長くはできないよ?」

「じゃあ制限時間3分にしてやろうぜ」

「わかった」

それから3分間、彼らは点の取り合いをした。
凉子は相変わらずバスケ時に生まれる強気な性格をだしながら火神と張り合うかのようにボールを器用に動かす。
だが時間が進むにつれて男女の差と普段の練習量からか、火神の方が点を勝ち取るようになっていった。
かなり荒い戦いになっていたせいか彼女の足は少しずつ震え、息が荒くなっていった。
そして、3分が経過した。

「・・・ハァ、ハ、ァ・・・っ」

「大丈夫かよ」

終わった瞬間に座り込んだ凉子を心配し、火神は未使用のタオルとまだ開けていなかったペットボトルを隣に座りながら手渡した。
そしてもう一枚のタオルで自分の汗を拭いながら彼女の顔色を伺った。

「・・・う、うん。大丈夫・・・ちょっと、久々に動きすぎて、ね」

“ありがとう”と言いながら受け取ったペットボトルを開けてがぶ飲みする。
少しぬるくなった中身を半分ほど飲んだところで小さくため息をついた。

「ありがとう、火神」

「あ?」

「相手になってくれて。1人でどうしようかなって思ってたから助かった」

そう言ってはにかむ彼女をみて火神は頭を掻きながら笑った。
そして先程買ったおにぎりを1つ凉子に渡し、残りの大量なパンやおにぎりを取り出して食べ始めた。
そのリスのように口に含める食べっぷりに凉子は一瞬唖然としたあと、笑い出した。

「ん・・・あんだよ?」

「い、いやぁ・・・よく食べるなってさ。テツとは大違いだよ!」

「ああ、黒子は全然食わねえからな」

「火神は食べ過ぎだけどね」

そう言って再び笑い出す凉子の頭を火神は撫でた。
突然の彼の行動に凉子は驚いた顔をして彼をみた。

「あ、わりぃ。お前が笑うのってなんか珍しいなっておもったらつい」

「なんだよ、それ?」

凉子はきょとんとした顔で火神を見つめる。

「お前、黒子の前以外はあんま笑わねーからさ。」

「そうか?」

「そうだろ」

凉子は火神に言われて少し考えたあと、“そういえばそうかもな・・・”と言い出した。

「確かにあんまり表情筋使わないかも。笑ったせいで顔疲れた。」

そう言って頬をぐりぐりと手で回しながら苦笑いを浮かべた。
それからおにぎりを開けて食べる凉子を見て、火神は再び食べ始めた。

「・・・火神のこと知れてよかったよ。お前、良い奴だったんだね。そりゃテツも気に入るわけだ」

「お前、オレにどんなイメージ持ってたんだよ」

「バスケ馬鹿な不良」

「・・・イメージ崩れてくれてよかったわ」

火神の言葉に笑顔を見せたあと、凉子は少し切なそうな顔をみせた。
彼女の顔をみた瞬間、火神はどうして切なそうなのか気になった。

凉子はいつも何を考えているかわからない。
でも、ふと彼女を見つけるとこういった切なそうな顔をしているときがある。

火神は以前からそう感じていたのだった。

「・・・なぁ、なんで悲しそうなんだ?」

「え?」

凉子は火神の突然な質問にきょとんとする。
火神が言っていることが理解できないという顔で見つめてくる凉子に火神は一息ついてから話す。

「・・・オレは入船のことよく知らねーけどさ、部活の時入船が悲しいっつーか、切ないっつーか・・・そんな顔してんのよく見んだよ。最初はバスケしたいのにできないからかなとか思ってた。でも今もオレが見たあの顔してたから」

「・・・」

「あ、いや、話したくねえなら言わなくても・・・」

「・・・うまくごまかしてたつもりだったんだけどな」

そう言って空を見上げながら苦笑いをする凉子。
火神はそんな彼女をみて声が止まった。

「・・・なんっつーかさ。別に悲しい訳じゃないんだ。むしろ嬉しいっていうか」

そう言って凉子は笑顔を火神に向けると、立ち上がってボールを取り、3Pラインからシュートした。
そのボールは綺麗な孤を描いてゴールに入った。

「私とテツは帝光中時代、彼らのプレイに疑問を抱いていた。そして、どんどん突き放されていった。それはテツからも聞いてるかな?」

火神は静かに頷く。
それをみた凉子はシュートしたボールを取りにゆっくりと歩きながら口を開く。

「あの頃のバスケはすごく寂しかった。私も一応中2ぐらいまでは一緒にバスケしてたからさ、才能を開花した彼らを追えない自分が嫌で仕方なかった。バスケを見てるとその頃を思い出しちゃってさ。」

拾ったボールを人差し指で回しながら過去を懐かしむかのような顔で話す彼女を見て、火神は本当に聞いても良かったのかと後悔した。
凉子にそんな悲しい顔をさせてしまったから。

「でも、今は優しい先輩に良い仲間のもとでテツはバスケができてる。それもすごく楽しそうに。だから、それが嬉しいのと反面になんであの頃もこうやってバスケができなくなっちゃったのかなって思っちゃうんだよね」

あいつらに未練タラタラなのかな。
そう言って笑い、回していたボールを火神に投げた。
火神はそれを受け取ると、数回地面に突いてからボールを持って凉子のほうを見た。

「・・・確かにバスケの方向性はちがっちまったのかもしれねえけどさ、誠凛としてアイツ等に勝って思い知らせてやればいいんじゃねーの?」

そう言った瞬間見上げてくる彼女の顔を見て頭を撫でる。

「それに、黒子だけじゃねーよ。お前だって優しい先輩と良い仲間の元で一緒にバスケしてるチームメートだ。1人で抱えるな」

その顔はとても真面目で、凉子は一瞬目を見開いたあと何かが吹っ切れたかのような笑顔をみせた。

「・・・やっぱり火神は良い奴だ。」

「元から良い奴なんだよ、覚えとけ!」

そう言って凉子の頭をガシガシと撫でる。
凉子は口では嫌そうな素振りをしていたが、その顔はとても嬉しそうだった。

「そうだね、見返すか!」

「おう!」

「じゃあ明日からは帝光中直伝のツラーい練習法やってみようか!」

「え゛」


時計の針は12時を差す頃。
2人は楽しそうにコートの中で話していたのだった。





***





翌日。
朝練の時間にメンバーが集まっていく中、火神と凉子だけは大遅刻してしまい、先輩たちに散々どやされた挙句、火神は外20周、凉子は中20周という罰を受けてしまった。

「凉子さんが遅刻なんて珍しいですね」

凉子の罰が終わった頃、ちょうど少し休憩だった黒子が凉子に話しかけた。

「あ、え、うん」

「・・・凉子、さん?」

明らかに目が泳ぎまくっている凉子を怪しいと思い、黒子は凉子の頬をつねりながら尋問する。
凉子はつねられている頬を一生懸命に守るかのように黒子の手を外そうとするが、細いとは言え男の子の力は強く、凉子は諦めたかのように昨日あった出来事を話した。

「つまり、凉子さんは夜中の12時まで偶然コンビニで出会った火神くんとストバスでバスケをしたり人生相談をしていたら、寝る時間が短くなってしまいふたり揃って隈を作りながら遅刻してきた・・・と」

「・・・すみません」

いつものポーカーフェイスな彼から染み出るオーラは黒い。
それは周りの先輩が黒子の存在に気づく程だった。
黒子はため息をついたあと、リコに少し出てくると告げて凉子の手を引っ張って体育館裏に向かう。
凉子はおとなしくそれについて行く。
そして体育館裏に着いた瞬間、黒子は凉子を軽く抱きしめた。

「あまり、心配かけないでください。なんで僕を呼ばなかったんですか」

「・・・ごめん。怒られると思ったから」

「そりゃ怒りますよ。元気になれたのはいい事ですが、やんちゃになれとは言ってません」

「・・・善処します」

凉子がそう言うと、黒子は静かに彼女を離して小さく笑顔をみせた。
その笑顔をみた凉子も微笑んで、黒子に言ったのだった。

「じゃあ今度はテツを呼ぶね」

「・・・その前に夜中に出歩くと警察の方に怒られます」

「そだね」

やっぱりテツといると落ち着く。
そう思いながら、凉子は黒子の手を掴んで体育館内に戻るのであった。





よく知らない君と





(テツが火神のこと気に入った理由がわかったよ)
(・・・それは困りました)
(え?)




……………………………

黒子っちになんとかしてヤキモチ焼かせたいと思ったのに失敗した・・・(泣)
でも火神も出したかったから満足ではあります。


(20120911)




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