大人しいとなんだか寂しいです
今日は黄瀬涼太が所属する部活、バスケ部のマネ希望として部活見学に行く。
…でもやっぱ行くのやめたくなってきた。
「澪っち!絶対来てよ!」
「澪っち!放課後、忘れないでよ!」
休み時間の度に彼は私の席まで来て、それを言って帰っていくのだ。
あぁ、目立つ。
ちょっとそこの女生徒よ、いいなぁとか言わない!
井上君、そんな目で私をみないで!
そんなこんなで放課後。
もういいや、サボろうと思って鞄を手にした瞬間、彼自らがお迎えに来ました。
「やっぱり、澪っち帰ろうとしたッスね!?澪っち絶対帰っちゃうと思って迎えに来て正解だったッスよ!」
「……いかなきゃダメッスか。」
「もちろんッスよ!」
そう言って彼は私の鞄を取り上げて歩き始めた。
なんだ、私の鞄は人質か!?
そして体育館。
私と黄瀬が入ってくるのを確認した先輩がスタスタとこちらまで来た。
「おせーよ馬鹿!」
「あだっ…!!」
そして黄瀬を一蹴り。
「違うんっスよ!今朝話したマネ希望の澪っちを迎えに行ってたんス!」
黄瀬がそう言うと、先輩は私のほうをちらりと見て再び黄瀬に目を戻した。
「わかったから、お前は早く着替えてこい!」
そう言って再び黄瀬を一蹴りいれて黄瀬を黙らせた。
この人、すごい…!!
「…で、アンタがマネ希望の…」
「あ、塚原澪です。中学の時もバスケ部のマネージャーやってました。」
「俺は笠松幸男だ。まぁ、黄瀬が推してくる奴だから信用なる奴なんだろうな。とりあえず今日は見学と、悪いが部室の掃除をしておいてくれねえか?」
「わかりました。」
その後、私はマネージャーの仕事内容と他のマネージャーの紹介を簡単に受け、笠松先輩は練習に戻っていった。
「んー…とりあえず掃除するか。」
部室を開けたら、汗のにおいがした。
一応掃除はしてあったものの、着替えた制服がぐちゃぐちゃになってたりとまぁ男らしい部屋になっていたので、簡単に整理したあと、私は黄瀬が本当に練習しているのか気になり、少し見学することにした。
彼の身体能力はすごい。
一度見たプレイを自分のものにしてしまう才能、そして正確な動きができる身体を持っていた彼は中2から始めたバスケをなんなくこなしていた。
彼の練習風景を見るのは久しぶりだが、やはり変わってない。
俊敏な動きで次々とメニューをこなしていく。
やはり生まれ持った才能というやつか。
そんなことを考えていると、休憩にはいったらしく部員たちが次々とこちらに来た。
私は他のマネージャーと一緒に彼らに水分を渡した。
そうしていると、先輩たちの声が聞こえた。
「あれ、新しいマネージャー?今年は黄瀬目当てばっかだから取らないんじゃなかったのか?」
「あぁ、塚原澪って言って黄瀬が信頼できる元マネの女の子がいるっつって連れて来たんだ。まぁあいつが信頼できるっつーならいいだろと思ってな。」
「へー、澪ちゃん?よろしくな」
「あ、よろしくお願いします!」
信頼できる…なんて言ったのか、黄瀬。
なんかちょっと恥ずかしい。
「で?あいつが信用できるってことは…彼女か?」
先輩がニヤニヤしながらそう訪ねてきた。
私は普段聞かれないその質問に思わず顔を赤く染めた。
「え!?ち、違います!あいつとはただの幼馴染です!」
よく言われるこのセリフ。
これだけは何度言われてもなれることができない、恥ずかしいセリフ。
「「「お疲れ様っした!」」」
先輩のマネージャーたちと仕事が終わったあと少し談笑をしていると、今日の練習は終わったらしく汗をTシャツの裾で拭きながら部室に向かっていくのが見えた。
笠松先輩と話をしながら部室へと向かう彼を見つけて声をかける。
「じゃ、私帰るね。お疲れー」
いつでも帰れるように支度をしておいた澪はそう言って手をひらひらさせながら出口へと向かっていった。
その様子をみて慌てて彼は止めにはいる。
「え!?待ってよ澪っち!一緒に帰ろうよ!」
どこか切なげな声が後ろから聞こえ、澪はおもわず振り向いてしまった。
そこには垂れた犬の耳と尻尾が見えそうなぐらい悲しい顔をした彼がいて、澪は心の中でしまった…と思った。
彼は無意識なのだろうが、その悲しげな目に澪が逆らえたことがない。
いつも明るくて無邪気な彼のギャップというか…
彼の笑顔がないと寂しいというか…
「〜〜〜〜〜っわかった!待ってるから早く支度して来い!10分!」
「はいッス!」
先ほどの顔から一変、彼の見えない尻尾は全力でフリフリと揺らしていた。
笑顔で走っていく彼をみた他のマネージャーは、顔を真っ赤にしながら言ったのだった。
「かわいい…っ」
大人しいとなんだか寂しいです(澪っち!澪っち!!)
(……気のせいでした!)
………………
黄瀬くんワンコ!!
(20120728)
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