くっつかないでください移ります変態が





季節も春から夏に変わりつつある今日この頃。

ほかのみんなが部活に入部していく中、私は未だ迷っていた。


「んー…。」

「澪、まだ迷ってんのか?」

「あぁ、うん。」


前の席の井上君が帰りざまに私に話しかけた。


「井上君は野球部だっけ?」

「あぁ!今日から球拾い以外もやらせてくれるってから楽しみだぜ!」


井上君はとても爽やかに笑いながら楽しそうに話していた。

彼は中学の時、甲子園にまで上り詰めたらしい。

うん。すごく野球少年ってかんじでいいね。


「頑張ってね?」

「おう!お前もはやく部活きめろよ!」


井上君はそう言って部活に向かった。


さて、私はどうしようかな。



「澪っち!!」


んー…バレーとかバスケとか、球技系は苦手だしなぁ。


「ねぇ、澪っち!!」


文化系に入るようなスペックも持ち合わせてないし…。


「俺の話聞いてよ、澪っちぃ!!」

「だああ!うるさいなぁ!なによ!」


井上君が去っていくのと同時に入ってきたモデル男、黄瀬涼太。

なんの用だよ。


「なに?」

「澪っち、バスケ部のマネージャーやってくれないッスか!?」

「は?」


彼がバスケ部に入ったのはもちろん知っていた。

毎日ハードな練習に参っていると、少し前の帰り道のときに言っていた。


「なんで私?今年はマネ希望なんて山のようにいるんでしょ?」


なんたってモデルで超人気な黄瀬のいる部活だ。

女の子が体育館前でうじゃうじゃしてるのを帰り道に見かけたことあるし。


「いや、そうなんッスけど。」

「嫌味を言いにきたのか貴様は。」


いいですね、オモテになって。

私がそう言うと、彼はとても焦った顔をして私の手を握った。


「違うんッスよ!とりあえず澪っちも一緒に来て!」



そういうと、彼は私の手を引っ張って体育館まで全力疾走した。

運動神経抜群な彼にスピードを合わせることができるわけない。

私の足はすぐにふらつきはじめた。


「ま、まって…、よ!」

「あ!大丈夫ッスか!?」


ごめんとしょんぼりした顔で謝ってくる彼の頭に垂れた耳があるように見えるのは、今の全力疾走の疲れのせいだろうか。

そんなことを切れた息のなかで思っていると、彼は背中をむけて私の前にしゃがんだ。


「乗ってくださいッス!」

「嫌です!」


いくら放課後だとしたって、まだ校内に残っている生徒はたくさんいる。

そんな中で黄瀬におんぶされてたら、翌日の話題になること間違いないじゃない!


そんなことを考えて嫌がっていると、黄瀬はしゃがんだ状態のまま後ろに手をのばして私の腕を引っ張った。


「!!?」

「掴まっててね!」


彼はそういうと私が降りる暇を与えず、すぐに走り出した。

もちろん廊下で女の子をおんぶして走る黄瀬はすごく目立った。

せめて私が乗っていることがバレないように、彼の肩に顔を押し付けた。


「…っバカ!目立つのは嫌なのに…」

「なんか言ったッスか?」

「なんでもない!!」





結局そのまま体育館まで連れて行かれた。

体育館に入った最初に見た光景に私は驚きをかくせなかった。


「テツくん!?」


中学時代、黄瀬に関する愚痴をかなり聞いてくれた心優しい友達、黒子テツヤが頭から血を流してベンチの上に横たわっていた。


「澪っち、確か看護系の知識あったッスよね?」


私の母親が看護師をしている影響で、私も応急処置程度の技術は持っていた。


「今ちょうど保健室の先生がいないみたいで、手当する道具だけ持ってきたって先輩が言ってたのを聞いて。その時澪っちの顔が浮かんで。えっと、」

「もういいから!とりあえず処置が先決!」


そう言って私は救急箱から包帯とパットと消毒液を取ってベンチに置いた。

ティッシュをポケットから取り出してテツくんの血を軽く拭ったあと、消毒して包帯を巻いた。

そしてテツくんの学校の人と思われる女性に伝えた。


「えっと、テツくんの学校の人ですよね?軽い脳震盪をおこしてるみたいです。傷のほうは応急処置ですので、この試合が終わったあとにでもお医者さんに行ってください。」

「わかったわ、ありがとう。」



テツくんは大丈夫と黄瀬に伝えると、彼は安心した顔をして“ありがとう”と私に告げて試合に戻っていった。


その後、起きたテツくんが試合に戻るといって聞かなかったり、初めて負けた黄瀬が泣き出したりと大騒ぎになった。










「……黄瀬。」

「…澪っち。」


学校裏の水道で頭を冷やしている彼の姿に少し胸が痛くなった。

彼がこんなに落ち込んでいるのは久しぶりだ。


「先輩の言うとおりだよ。今まで負けてないほうがナメてるって話だよ。しっかしろ。」


私は濡れた彼の頭をハンカチで拭きながら言った。


「…そうッスね。」


彼はどこか疲れたような、なにか吹っ切ったような、そんな笑みを私に向けた。



「ってか、テツくんが怪我したなら最初からそう言え!」

「あだっ!?」


ハッと黄瀬が私のクラスに乗り込んできたことを思い出して私は彼の頭を叩いた。


「いや、気が動転してて。」

「マネージャーってなによ!」

「澪っちが帝光中の時みたいにマネージャーだったら対応してくれるとか考えてたらそのまま言っちゃって。」


またしょんぼりしだす彼を見て、内心慌てながらため息をついた。

私は帝光中時代、バスケ部のマネージャーを勤めていた。

中一のとき、当時仲がよかったさつきに誘われて入ったら、中二になって黄瀬が入部してくるんだもん。

あの時はびっくりしたなぁ。


「黄瀬一人じゃ心配すぎ。先輩たちにも迷惑かけてそうだし。私が見張りとしてマネージャーやってあげるよ。」

「ホントっすか!?」


彼の顔は本当によく動く。

泣いたり笑ったり、まるで赤ん坊だ。



「わーい!澪っち!」




くっつかないでください移ります変態が



(酷っ!!)

(彼の真面目な姿がまた見られると)
(内心喜んだことは秘密)





………………

ちょっと原作沿いになりました。
あれ、テツくん喋ってない←



(20120715)




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