文化祭の始まり始まり




「あ、私が入院してた時にテツくんとさつきが来てくれたからお礼言っとけってお母さんに言われてさ、2人にメールした時に聞いたんだけど」

「?」

「涼太、文化祭で女装するの?」

「わああ!!?」


高校に上がって初めての文化祭が間近に迫っている今日。
入院のせいでなにをするのか一切知らないままだったことを後悔する程のビッグニュースだ。


「記念撮影は1回300円でいいよね」

「オレで稼ぐ気っスか!?絶対嫌だから!!」

「普段から恥ずかしい写真公開してんじゃん。変わらなくね?」

「澪っち酷い!!」


涼太のクラスが男装女装喫茶をすることを他校のさつきから初めて聞くというのも微妙な話だが、とにかくやるらしい。

そしてちょうど次のホームルームの時間は文化祭についてだと井上くんが言っていた。
我がクラスはもめていてまだ決まっていないとか。

授業の開始を知らせるチャイムが鳴り涼太が帰ろうとしたとき、前の扉が勢いよく開き、委員長が叫んだ。


「隣のクラスと合同で男装女装喫茶をしよう!!」

「澪っちと一緒!!!?」

「嫌だ!!!」


委員長の言葉に立ち上がって叫ぶ私と笑顔の涼太。
その前では、言っていることは全く違うが息がぴったりだと言って井上くんが爆笑していた。


「賛成賛成!!ウチのクラスと合同でやろうよ!!」

「反対!!涼太のどこにホレてるのかさっぱりわからないファンたちがうじゃうじゃ来るのは中学までで十分!!もうトラウマ!!」

「澪っちの男装見たいっスもん!!」

「ってかお前は自分のクラスに帰って二度と来るな!!」


クラスが静まる中、井上くんの爆笑と私たちの言い合いだけが響いた。
それは隣のクラスにも聞こえていたらしく、涼太を迎えに来た彼の担任が渋る涼太を無理矢理連れて帰ったことでようやく収まった。





結果だけを言うと、我がクラスの文化祭は隣のクラスと合同となった。
私の必死な反論も“面白そうじゃん!黄瀬くんいるし!”という涼太のファン達と純粋に楽しむ男子たちにより無駄に終わったのだった。


「当日休む。絶対休む」

「塚原はもちろん男装して客をもてなせよ?」

「は?」


何を言っているんだ、我らが委員長様は。
既に“接客 塚原”と黒板に書いてあるのはおかしいだろ。

不満しかない私は何度も反対する。
すると、とうとう委員長がぶっちゃけた。


「隣のクラスと男装女装喫茶っていう案がダブっちゃってさ。そこで出たのがお前ら二人組だったわけよ。お前らなら息ピッタリだし、良い接客してくれんじゃね?ってなったらいつの間にか協力することになってた」


“だから、頑張ってくれよ?”と笑顔で言う委員長に今すぐ殴りかかりたい気持ちを抑え、私は机に寝込んでため息をついた。

それから決まるまでは早かった。
あっという間に係りが決まり、寸法まで測る。
買うとお金がかかるからデザイン部に作ってもらうらしい。
いつそんな話までつけたのか、というか我がクラスはこんなにも一致団結していたのかと感心までしてしまった。



「澪って背高いし絶対似合うよね、燕尾服」

「え、燕尾服なの!?」

「うん、黄瀬くんがドレスらしくて、じゃあ執事?って話になったみたい」


寸法を測られている最中の新事実。
どこまでも涼太と一緒らしい。








その後部活で散々マネの先輩に愚痴った(うらやましいと言った先輩には存分に涼太の本性を説明したが、無駄だった)。

家に帰ってからも鬱は消えず、ベッドに仰向けに寝てため息をついた。
すると窓からノックする音、つまり涼太が来た。


「澪っちそんなにオレと一緒にするの嫌?」

「うん。涼太のファンでごった返すのは嫌」

「………」


見ないぞ。
彼は今絶対ショボーンを顔にそのまま描いたような顔をしているはずだ。
その顔を見てしまうと私は絶対拒否できなくなるんだから。

絶対見ないと心に誓い、仰向けからうつ伏せに体制を変える。
すると急に静かになる部屋。

諦めてくれたかと一息ついた瞬間、思わぬ衝撃。


「男の前で無防備っスね。ダメだよ、澪っち」


“オレだって男っスよ?”


耳元にかかる吐息といつもより低い声に私の顔が真っ赤になっていく感覚がした。


「〜〜〜〜〜っ、」


思わず起き上がって彼と距離を取ってから顔を見た。
彼はあざとく笑いながらベッドに乗ってきて、私の心拍数は無駄に上昇する。

私の隣に座った彼は、真っ赤な私の頬を片手で触って笑った。


「拒否しないでよ」

「っ、」

「好きな女の子ぐらいは護るからさ?」


見てしまった。
私の拒否できない彼の顔が目の前にある。

どんどん心拍が上がっていき、涼太にまで聞こえているんじゃないかというぐらい音が鳴り止まない。

私はため息をついて自分を落ち着けてから声を出した。


「っ、………護るからって、それ中学のときも言ってたなぁ」

「う゛っ…」

「アンタ、確か結局女の子達から逃げ切れなくて私を巻き込んだよな?」

「………」


先程までのかっこいい彼は消え、一気にしょぼくれていく姿に笑いが込み上げた。

いつもの彼に心拍数は下がっていく。

「…わかったよ。今度こそ護れよ?」

「!!!、はいっス」


あぁ、私は本当に彼に弱いな。
そんなことを考えながら、私は彼の顔をつねった。





文化祭の始まり始まり





(ってか、当日の衣装ってアンタが姫で私が執事でしょ?)

(…オレが護られる側っスね)




……………………………………
大学の文化祭、あまり盛り上がらなかったなぁ…
高校は廊下が人で溢れるほどだったのに。

…黄瀬くんがいたら盛り上がるどこじゃ済まないんだろうな(笑)



(20121203)




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