お騒がせしました


涼太から元気をもらった後、私は放課後に決着をつけようと覚悟した。

私は放課後、涼太に“先生に呼ばれたから笠松先輩に遅れるって言っといて”と伝えて加藤さんのクラスに向かった。
席に座って友達と話している加藤さんを見つけて話しかけると、彼女は少し顔色を悪くしながら席を立った。

「………屋上でいい?」

「うん」

加藤さんの案に賛成し、私たちは屋上へと向かった。







誰もいない屋上につくと、私はいつでも逃げられるように警戒し、ドア側に立った。


「この前、私を落としたのって加藤さんよね?」

「………」

「許す気はない。でも話を聞きたい」

そこまで言うと、彼女は肩をピクリと揺らした。
それから下を向いてため息をついた彼女は口を開いた。


「…あなたが悪いのよ。幼なじみだとか言っちゃって、黄瀬くんにまとわりついて。邪魔なのよ!」

驚いた。
加藤さんからみると、まとわりついているのは私らしい。
恋は盲目というが、本当なんだなと内心呆れながら彼女に言い返す。

「涼太が好きなら行動すればいいじゃない。私を消したってあいつは振り向かないっしょ?」

そう言うと、加藤さんは目を見開いたあと私の頬に爪をたてて引っ掻いてきた。

「煩い煩い!!いい気になってんじゃねーよ!消えろよ!!消えちゃえよ!!」

痛いところを付かれて頭に血が昇った加藤さんは、私の頬にビンタをした。

まだ逃げない。
ここで逃げたら話は終わらない。

そう思って、ヒリヒリしている頬に手を添えながら言葉を発しようとしたとき、ドアが開いた音がし、背後から手が伸びてきた。
その手は加藤さんの私を叩く為に振り上げた腕を掴む。

「…ッ!?」

その手の正体を掴むために私は後ろを振り向いた。
するとそこには息を切らせた涼太と井上くんがいた。
加藤さんの手を掴んでいるのは涼太で、彼女は顔を青くしながら吃りはじめた。


「き…黄瀬くん、これは、その…」

「………アンタが澪に酷いことしてたの?」

涼太は私を後ろから片手で抱き締めながらそう語った。
いつもの口調ではない静かなその声に、私は本気で彼が怒っていることに気づいて涼太の名前を小さく呟いた。


「…もう大丈夫だから」

私の耳元でそう呟いた彼は、井上くんに私のケガをした頬の具合を見てくれと頼んで私を離した。
そしてゆっくりと加藤さんの前に立ち、彼とは思えない程の冷たい目を彼女に向けた。


「澪はオレの大切な人なんだよ。これ以上手出しするようだったらこっちもそれなりの対応するから」

「……ぁ…ッ」

カタカタと震えながら涙を流す加藤さんに涼太はそう告げたあと、にっこり笑ってこちらに向かってきた。

少し加藤さんがかわいそうな気持ちと、涼太の“大切な人”というフレーズの嬉しさで混乱しながら、私は彼に苦笑いを浮かべた。

















それ以来、私に対するいじめは一切なくなった。
加藤さんは私をみるとビクリとするまでにトラウマになったらしい。
私の頬の傷は、井上くんが走って濡らしてきてくれたタオルで丁寧に拭いた後保健室で治療をした為、化膿もせずにきれいに治った。


だが、1つ心残りがあった。
涼太にまだお礼を言えてないのだ。

井上くんには傷を拭いてくれていた時に言えたのだが、その後色々動揺していたせいですっかりタイミングを逃してしまい、今では言い辛くなっていた。

「どーしよー…」

「家で言えばいいじゃんか」

「いや、なんか不思議と最近部屋に涼太来ないんだよ」

10分休憩時、私は机にへたりこみながら井上くんにそのことを相談していた。

「じゃあ呼び出せよ」

「ハァ!?無理無理!!」

「お前…乙女か。そんな可愛いもんじゃないだろ」

「ひどっ…」

休み時間の度に来ていた筈なのに、あれからほぼ来なくなった。
彼なりに責任を感じているのだろうか。

「じゃあ、昼休み屋上で待っとけ。俺が呼んどくからさ」

「ぅ…オネガイシマス…」

井上くんのハッキリしろよと言わんばかりのオーラに推し負け、私は覚悟を決めることになった。






そして昼休み。
私はお弁当片手に屋上の片隅で正座しながら涼太を待った。
5分程待った頃、彼は走ってきたのか少し息切れしながら屋上の扉を開けた。

「澪っち!遅れてごめん!」

「大丈夫…デス」

「え、正座!?どうかしたんスか!?」

驚きつつも彼は私の前まで来て正座をしだした。
その行動が面白くて、私は思わず吹き出してしまった。
それに慌てる涼太がなんだか可愛く見えて、私の緊張はすっとなくなった。


「この前はありがとう、涼太。それが言いたかったんだ」

「………っ、」

目を見開いた後紅くなっていく彼の顔。
どうかしたのかと聞くと、私を抱き締めてきた。


「ちょっ…!?」

「…澪っちの笑顔久々に見れてホッとした。よかったぁ…」

本当にホッとしたらしく、彼はへにゃりと笑って私を見た。
その飾らない笑顔に私も笑顔で返した。



「あっ、お礼はほっぺにチューでいいっスよ」

「調子に乗るな」

彼の頭にチョップをかます。
痛がる彼に“帰る”と言って広げていないお弁当を掴んでクラスに戻る。

「まって欲しいっス!」

「………涼太」

「?」

私はしゃがんだままの彼に近づいてその頬に小さくキスをした。
その途端崩れ落ちて顔を真っ赤にする彼を見て、少しの照れとかなりの優越感に浸りながら扉に向かった。


「今日、私の部屋に来なよ。することなくて暇だから付き合え」

「………っ、はいっス!」


階段の踊り場に差し掛かった頃、頭が冷静になったのか先ほどの行動が急に恥ずかしくなってクラスまで走って帰った。
机について直ぐに突っ伏した私を見て井上くんが心配してくれたが、今はなにも言えない。



とりあえず、今日の夜が楽しみだ。





お騒がせしました





(澪っちいいい!!来たっスよ!)

(煩い眠い)

(ええ!?)



……………………………


久しぶりに黄瀬くん書けた(*゚▽゚*)
今日大学で黄瀬くんのキーホルダー落ちててびっくりしました(笑)


(20121113)





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