帰ってきた平和と蘇る現実





「我が子ながら呆れるわ…」

「……」

検査入院も無事に終わり自宅に帰ったあと、黄瀬に言われたことをお母さんに言うとかなり呆れた顔で言われた。
まさかそこまで呆れられるとは思ってもいなかったので驚いて声もでなかった。

「そんなことかなり前から知ってたわよ。涼太くんが本気だから不法侵入を許しているんじゃない」

“じゃなかったら警察沙汰よ”と言われ、確かに…と思いながら私は頭を掻いた。
でもいまだに信じられない。

…涼太が私を好き、だなんて。

「…どうしたらいいのかな」

「どうもしなくていいのよ」

「……え?」

「なんか展開が欲しかったら涼太くんが進めてくれるわよ。ふぁーいと!」

なんて呑気な母親だ。
私はそんな母に呆れつつ、赤くなった顔を隠すようにソファで体育座りをして顔をうずめた。


涼太はあの時私に爆弾発言をしたあと、ニヤニヤする看護師さん達の前でも平然とした顔で私を見つめていた。
多分だけど、私の答えを求めているわけではなかった。

ただそのことを覚えて欲しかっただけ。
ベッドの中でうずくまる私の毛布を取り上げ、頭を優しく撫でてきた彼の顔はそう私に伝えていた。




***





今日は久しぶりの学校。
涼太は爆弾発言事件のことなどまるでなかったかのように朝練の時間に私を迎えに来た。
どう接すればいいのか一瞬戸惑ったものの、黄瀬が普通に話しかけてきたので私は内心ホッとしながらいつも通り接するように努力した。
涼太に気を使わせたくはないし、涼太も私が変に気を使うのを望んでいない・・・と思うから。

学校に行くのは正直怖い。
いじめの数々を忘れられるわけがない。
私の足は学校に近づくに連れて動かなくなっていった。
でもそれを悟られたくない一心で必死に足を動かしていると、涼太は少し苦笑いを浮かべた。

「・・・ツライなら帰ろう?無理して行く必要はないっスよ」

「え、あ・・・」

涼太にまた心配をかけてしまったことに少し落ち込む。
遅くなっていった私のペースに合わせて歩いていてくれた彼は本当に優しい。
そんな彼の負担にこれ以上なりたくなかった。

「大丈夫だよ、いざという時はどっかのモデルさんの顔を盾にして逃げるから」

「しょ、商売道具!」

マネージャーに怒られるッス!!と言いながら慌てる涼太をみて笑いながら再び学校に足を向けていると、突然彼が私の肩を引っ張って彼の方に回転させられた。
彼の顔は先程までと違い真面目な顔をしていて、私は思わず緊張してしまった。
彼の綺麗な顔が私を一心に見つめながら口を開いた。

「オレのせいで今回のことが起きたのはわかってる。何度も澪っちから離れたほうがいいんじゃないか、とか考えた。でも、やっぱそれは嫌だ」

「涼太のせいじゃ・・・」

「だから全力で守ることにした。常に側にいるから、安心して?」

いつもの口調じゃない彼の言葉からは本当に私を心配してくれているんだって感じ取ることができた。
重かった足がスっと軽くなるのがわかる。
私が小さい声で“ありがとう”というと、彼は満面の笑みをみせて私の頭を撫でた。

「行こ、澪っち!」

そう言うと彼は私の手を掴んで再びゆっくりと歩き出した。

・・・涼太は本当にスゴいなぁ。
私の不安を一気に取り去っちゃった。




私のせいで朝練にすこし遅刻してしまった。
扉を開けた瞬間笠松センパイの怒鳴り声が聞こえたが、私が扉から顔を覗かせたらその声は止んだ。

「・・・塚原?」

「澪ちゃん!!」

バスケ部のメンバーが駆け寄って私を撫でたり安心したような顔で私を見ていたりしている。
この場所はとても暖かくて好きだなぁ・・・なんて思っていると、笠松センパイが私にデコピンしてきた。

「ッ・・・!」

「バカ野郎、心配させやがって」

声は怒っているものの、その顔はとてもやさしかった。
女性なれしていないらしいセンパイは出会った当初はどこか他人行儀で少し寂しかったが、今では部員と変わらずに接してくれている。
それが私にはとても嬉しいことだった。

「すみません、もう大丈夫ですから!」

「そっか。テメーら早く練習に戻れ!!」

私の頭をひと撫でして笑うと、センパイは大声を張り上げて練習へと戻っていく。
その途中で私の隣にいた涼太を一蹴りしながら“さっさと支度しろバカ!”と言う。
いつもの光景にやっと戻れたな、とここでやっと認識できた。



遅刻してしまったので朝の仕事は全て他のマネージャーが行っていたので私は仕事がなく、練習風景をボーっとみながら考え事をしていた。

・・・あの時、私を突き落とした人物が多分ノートや上履きに細工した人なんだろうな。
顔までは見えなかったけど、ひらりと返ったスカート、ロングな黒髪。
・・・そして、涼太のことが好きな人。

その人物に覚えはあった。
涼太と同じ、隣のクラスの確か加藤さん。
いじめが始まる少し前に涼太にフラれた女の子。
すごく綺麗な子で、“黄瀬くんと付き合えたら美男美女カップルだね”と話していた姿を目撃したことがあった。
そんな子がフラれたのだから、その噂が広まるのも早かった。

朝練が終わるまでずっとそのことを考え続けていた。





***





教室前まで涼太と行って別れたあと、クラスの友達や井上くんに色々と言われた。
心配してくれる声に私は再び暖かい気持ちに浸された。
それはHRが始まるまで続いた。

HRが終わったあと、先生に廊下に来てくれと呼び出されたのでそのまま廊下へと進んだ。

「退院おめでとう。・・・悪かった、気づいてやれなくて」

「いえ、それで話って?」

「ああ。犯人の件なんだが、覚えはあるか?」

ありますよ、とは言えなかった。
加藤さんが犯人なのは間違いないとおもう。
でも、それで犯人を突き出しても何も解決にならないと思ったから。

「大丈夫です。私だけで解決しますから」

「でも・・・」

「大丈夫です。なにかあったら言いますから」

先生は私の真剣な目を見てくれたのか、何かあったら絶対報告しろとだけ言ってこれ以上何も言わないでくれた。
他の先生にはうまくごまかしておくから、なにか聞かれたら話を合わせておいてくれって言ってくれた先生には感謝しなきゃな。



それから、休み時間の度に涼太は私のクラスに来た。
私のクラスに来て井上くんと話したり、私に授業でわからなかったところを聞いてきたりしていた。
私を気にかけてくれているのは、時折みせる周りを警戒した顔からよくわかった。
そこまでしなくてもいいとは言えず、私は素直に感謝だけしておくことにした。

「澪っち、昼休みに話があるっス」

「え?」

「迎えに来るから弁当用意して待っててね!」

それだけ言って涼太は素早く立ち去っていった。
なんだろう、涼太が親並みの過保護になっている気がする。
その証拠に、井上くんがニヤつきながら私を見ている。
私は小さくため息をつきながら肘をついた。






……………………………

久しぶりの更新。
あいかわらず黄瀬くんが可愛くて仕方ない・・・!


(20120907)



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