君のいない生活は…
早くから始まるちょっと辛い朝練習。
先生の声が子守唄にしか聞こえない授業。
ワイワイと楽しい休み時間。
声を出しながら上達するために必死になる放課後練習。
いつもの風景に“君”がいない。
1年vs2年で練習試合をすることになった。
本格的にやるということで、海常7と書かれた青いユニフォームを着る。
帝光中で初めてバスケ部に入ったとき、澪っちは数週間で1軍に入って、その後すぐにレギュラーになったオレに“スゲーじゃん?”ってデコピンしながら微笑んでくれたな。
味方から回ってきたパスを受け取り、オレは少し悪い位置からシュートした。
“今回は入ったが、今のは味方にパスしたほうが確実だろボケ!!”と笠松センパイに怒鳴られた。
そういえば澪っちも“もっと頼ったバスケしたほうが楽しいんじゃない?”って助言してくれたっけ。
確かに、センパイ達と練習するようになってから、チームワークってのが楽しくなったな。
なにをしていても澪っちのことが頭をよぎった。
そのせいか、ついボーっとしてしまうことが多々あった。
「…黄瀬!今日も外周してこい!」
「…うっス」
笠松センパイはそんなオレに叱咤するかのように毎日外周を追加していた。
オレが抜ける代わりに他の1年が入って試合が再会された。
「澪っち、今日もお邪魔するッスよー」
軽くノックをしてから、オレは澪っちの病室に入った。
そこにはいまだ静かに眠っている澪と、その隣で座りながらコクコクと頭を揺らしながら眠っている彼女のお母さんの姿があった。
澪はあれから1週間、眠り続けていた。
医師の話によると、あとは彼女次第だという話だった。
つまり、それは澪っちに起きようという意思がないということ。
オレはおばさんと反対の方に椅子を持っていき、そこに座って澪っちの頭を撫でた。
「…今日、うちのクラスは文化祭の出し物を決めたんスよ。男装女装喫茶とか言ってオレ女装することになっちゃったんス。童顔な黒子っちとか赤司っちとかなら似合うんスかね?オレは絶対似合わないってのに、クラスの女子たちが恐ろしい顔して迫ってきて…。」
「……ねぇ、澪っち。はやく起きてよ。お前に女装なんて似合うわけないじゃんって笑ってよ。」
彼女の手を両手で握りながら話す。
それがオレの週間になっていた。
「…好き、なんスよ。澪っちのコト。ほら、驚いた顔してよ。なに言ってんだってオレを殴ってよ。」
彼女からの反応は、ない。
オレは苦笑いを浮かべながらいつも買う花束を花瓶に入れるため、それらを持って水道へと向かった。
そして廊下を歩いている最中に意外な人物に出会った。
「あれ、黒子っちに桃っち。どうして…」
彼らに澪っちの事件について話していない。
あまり話を広げてしまうと迷惑になるし、心配もかけてしまうから。と少し前おばさんが言っていたから。
「…監督に近いうち戦うことになるだろうから海常について調べて欲しいって言われてね。調べてたら澪ちゃんのことにたどり着いたの。…中学のときテツくんと澪ちゃん仲良かったから。」
「お見舞いに来ました。澪さんの容態は?」
不安そうな顔をしている桃っちと一見いつもどおりのポーカーフェイスだが言葉に若干焦りがみえる黒子っち。
オレはそんな2人に病室は花瓶に水を入れてからでもいいかと了承を得て、一緒に水道まで行きながらここしばらくの出来事を話した。
「…きーちゃんは悪くないよ。きーちゃんのことだから絶対自分を責めてるでしょ?」
「そうですね。黄瀬くんは悪くありません。」
2人はオレを励ますかのようにオレは悪くないと言ってくれたが、それでもオレ自身を咎める気持ちに変わりはなかった。
少し涙目な桃っちが花を花瓶に綺麗に飾ってくれたのを持ち、澪っちの病室へと向かった。
ノックをしてから病室に再びはいると、先ほどまで寝ていたおばさんが目を覚ましていた。
「あ、涼太くん。今日も来てくれてたのね」
少し疲れた笑顔でおばさんはオレに話しかけたあと、後ろにいる2人に目を向ける。
そういえば2人は初対面だったなと思い、紹介することにした。
「おばさん、こっちは中学時代一緒だった黒子くんと桃井さんッス。噂で聞いたみたいで急いで駆けつけてくれたって」
「まぁ…ありがとうね」
そう、おばさんは本当に嬉しそうにお礼を言った。
その後、4人で澪っちとの思い出話をして2人は心配そうに帰って行った。
澪には素敵な友達がたくさんいるのねって、おばさんは喜んでた。
そろそろ面会時間終了かという頃、おばさんはオレにそろそろ時間だから帰りなさいと言った。
その時、オレは看護師さんの漏らした言葉を思い出した。
「…おばさん、毎日ここに泊まってるんスよね。ろくに眠れてないんじゃないッスか?」
「…大丈夫よ、」
「大丈夫じゃないッスよ。澪っちが起きたときにおばさんが病気になってたら澪っち、悲しむ。…今日はオレが澪っちに付きそうから、おばさんは家でゆっくりしてくださいッス。なんかあったら連絡するんで。」
「…そう、ね。ありがとう。」
オレの言葉に納得してくれたのか、おばさんは苦笑いを浮かべてオレに任せてくれた。
おばさんはオレが澪っちを好きなことを知っていて応援してくれている数少ない人物。
だからおばさんは帰るときに“抵抗しないからっていたずらしちゃダメよ!”って言ってきた。
オレはかなり慌てて否定したのだが、少しいたずらな笑みを浮かべたおばさんに伝わったかどうか定かではない。
おばさんが帰ったあと、オレは澪っちの隣に座ると手を掴んで少し仮眠を取ることにした。
………………………
想像以上に長い話になったな…←
(20120814)
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