大丈夫だから、笑って
上履きの中の画鋲、トイレの個室で上から水、置き勉していた教科書やノートに落書き、“死ね”とプリントされた手紙などなど、漫画やアニメにあるようないじめはあの日から1週間、ずっと続いてた。
唯一見られた井上くんには、あれからあまり話しかけないようにしている。
井上くんは何か言いたそうに私を見ることはあるが、私は彼に“何もいわないで”とだけ言っておいた。
前にも何度かこういうことはあった。
最初は小学6年の頃。
涼太に片想いしていた女の子のグループにトイレで“涼太くんに近づかないでよ!”と言われて突き飛ばされた。
その頃からどこか冷めていた私は、彼女らの言葉に“いや、家隣だから無理っしょ”と返した。
次にあったのは中学2年。
席替えでたまたま涼太の隣の席になったとき、確か1日中体育館倉庫に閉じ込められた。
私が早退したと彼女たちが言ったらしく、誰も助けには来なかった。
その時の私は、ポケットに入ってたガムを噛みながらマットの上で寝転んでた。
小さいいじめなら常に起きていたためか、今回も動揺はしなかった。
でも流石に1週間連続で、しかも1日何回もそういうことがあると精神的に疲れるのは仕方のないことであって。
私は少しずつ授業をサボるようになった。
「澪っち、聞いたっスよ?最近よくサボってるって。どうかしたんスか?」
「…別に、涼太には関係ないよ。よくあるじゃん?一度サボる快感を覚えたら脱出できないってやつ?」
「…そーッスか」
夜、いつも通りベランダから無断で侵入してきた黄瀬はベッドに座って雑誌を読んでいた私の隣に座るとどこか心配そうな顔で私に声をかけてきた。
涼太は何も悪くないけど、話したらきっと優しい彼は罪悪感に駆られてしまう。
だから言わない。
優しい彼は、いつもバカみたいに笑っていればいいんだ。
「そんなことよりさ、アンタ毎度言うけど不法侵入は犯罪ですよ。裁判にかけたら絶対私勝てると思うんだけど。」
彼に悲しい顔はさせたくない。
「酷いっスよ!!オレと澪っちの仲じゃないッスか!」
彼に私という重荷を背負わせたくない。
「うるさい、黙れワンコ」
久しぶりに笑えた気がした。
***
最近、澪っちの様子がおかしい。
毎日見てるからわかる。
でも、頑固な彼女が簡単に人前で教えてくれるわけがないと俺もわかってる。
だから彼女の部屋に侵入して2人っきりで話をした。
でも、彼女が教えてくれることはなかった。
彼女の笑顔を久しぶりに見たきがする。
その笑顔を消している原因は何なんッスか?
俺の好きなその笑顔を消したくない。
俺はなにもしてあげられない自分に嫌気がさし、奥歯を噛み締めながら彼女との会話を楽しんだ。
大丈夫だから、笑って………………
(20120807)
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