それは自覚への第一歩で
今日は人によっては受験日であり、俺のクラスは半分近くいないために1限は自習となった。
俺と菜沙は推薦でほぼ確定しているので、教室で暇をもて余していた。
そして俺の隣の久城も受験日ではないらしく、眠たそうに漫画を読んでいた。
最初は真面目に自習をしている菜沙に話しかけたり邪魔したりして暇を潰していたのだが、次第に菜沙の不機嫌なオーラが出てきてこれ以上やったらクラス内にも関わらず回し蹴りでもしてきそうだったので、仕方なく隣の久城で暇を潰すことにした。
「なあ」
「んだよ?」
そこまで言って振り返った久城に俺は彼にしか見えないように菜沙を指差す。
わけがわからないといった顔をする彼を次に指したあと、手でハートマークを作った。
つまり俺が言いたかったのは“菜沙のこと、お前好きだろ?”である。
それがわかったのか、久城は顔を真っ赤にしながら机に手を打ち付けて立ち上がり、俺の手を掴んで走り始めた。
その途中クラスメイト達の冷たい視線と菜沙の殺気を感じ、俺はやりすぎたかとため息をついた。
学校の端にある普段使われていない準備室まで来たところでやっと九城は止まった。
「な、ななななんで知ってんだよ!?」
彼は俺の両肩を掴んで振り回す。
逆に気づかれていないと思っていた彼をすごいと思う。
クラスの3分の2は知っている状態だということは黙っておいた方がいいかと苦笑いを浮かべながら、俺は声を出した。
「あいつのどこが好きなんだよ?」
「………お前に言わなきゃなんねーの?」
「なんでそんな睨むんだよ」
九城は高尾を敵でも見るかのように睨み付けた。
いつもの九城らしからぬその様子に、高尾は内心焦りながらも訊ねた。
「…わるい。俺、樫木さんに関してはお前のこと嫌いだから」
「は?」
どんなカミングアウトだよ。と高尾が口を開いた瞬間、九城は背を向けてドアを開いた。
それから振り替えって高尾を見て、少しためらってから口を開いた。
「お前、樫木さんのこと好きだろ?敵じゃん」
「は…?」
「まあいいや。樫木さんは渡さねーからな!」
そう言ってようやく笑顔を浮かべたあと、走り去る九城を呆然と眺める高尾。
俺が、菜沙を好き…?
「あり得ねー!!!」
高尾はその場で笑った。
それはどこかがチクリとしたのを隠すかねように。
高尾がクラスに戻る頃には既に授業は終わり、給食当番が給食を用意していた。
学校では真面目な菜沙も流石に1時間自習は疲れたらしく、珍しく欠伸をしながら背伸びをしていた。
「樫木さん、おつかれー」
「なーにがお疲れよ。先生がカズと久城くんがいないって気づいて怒ってたわよ?」
「まじ?やっばいな!」
菜沙に声をかける久城の姿は本当に楽しそうで、高尾は少しの疎外感と胸の痛みを感じた。
その気持ちを振り払って、高尾は2人の元へと向かった。
「給食だろー?机つなげようぜ」
「あ、カズ。先生が学級委員なんだからしっかりしろだってよ」
いつも通りの会話をしながら給食を取りに行く。
菜沙との何気ない会話は楽しい。
俺だけが知ってる菜沙の顔を見るときは更に楽しい。
それをいつか他の奴にも見られるのだろうか。
―――樫木さんに関してはお前のこと嫌いだから。
ふと先程の久城の言葉が過り、敵対心と負の感情が入り交じった。
「……さねーよ」
「ん?カズなんか言った?」
「いーや、なんもねーよ!」
菜沙に聞かれ、高尾は笑顔でそれを受け流した。
それは自覚への第一歩で
(わたさねーよ)
(菜沙は絶対にな)
……………………………
高尾さんが最近特にイケメンすぎてツライ…
(20121126)
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