学校での君



「はよー、高尾!」

「おう、おっはよー!」

「よ、高尾!」

「はよー!」

朝、バスケ部も引退した高尾がゆっくりと登校していると、彼と同じクラスのメンバー達が高尾に挨拶をした。
クラスのムードメーカー的存在な彼を慕っている者は多く、それは今挨拶をしてきたメンバーも例外ではなかった。

そんな彼の姿を菜沙は教室の窓側にある自分の席で眺めていた。



***



「相変わらずモテモテだねぇ、アンタは」

「・・・は?」

おはよーさん!と言って菜沙の前である自分の席に後ろ向きで座った俺に、綺麗な黒く長い髪を二つに結んで眠そうな顔をした菜沙が肩肘をつきながらが話す。
その突然な投げかけに、俺は頭を傾げた。

「モッテモテじゃん、男子に」

「嬉しくねー…」

“ってかなんだよいきなり”と言った俺に“べっつにー”と答える菜沙。
その彼女の顔は暇潰しを探していた。

「よぉ!高尾、樫木さん」

「はよー」

「おはよう、九城くん」

俺たちが軽い言い合いをしていると、そこに俺の隣の席の九城が現れた。
九城は菜沙の返事に口元を盛大に緩める。
彼は今年初めて同じクラスになった菜沙に一目惚れしたらしく、現在は絶賛片想い中である。
自分のことに無頓着な菜沙は、九城の気持ちなど一切気づいていない。

九城も健気だな…
俺がそう思いながらため息をつくと、菜沙がデコピンをしてきた。

「ッテ…!?」

「なにボーっとしてんの。先生来たんだから前向きなよ?」

いつの間にか朝のHRの時間になっていたらしく、辺りは静まり返っていた。
隣の九城も前を向いているが、その目は俺を見て口元は笑いを堪えていた。
俺は小さい声で謝ったあと、キッと九城を睨んだ。




学校での菜沙は昨日の夜のような乱暴な彼女とは違い、“真面目”という言葉が似合うような普通の生徒だった。
彼女はいつも学校とプライベートで性格を分けていた。

そのかいあってか先生にも生徒にも信頼され、学級委員長を任されていた。
ちなみに俺は人見知りをしないからとかで議長をやらされていた。

そして今まさに俺の仕事の時間で、クラス内での今月の目標をHRで決めている。

「今月の目標の候補ある人いる?」

「給食を残さない!」

「先月もそれだったろ」

「じゃあチョークの補充を忘れない」

「それは日直の仕事だろうが!目標にならねーよ」

毎月こういった俺とクラスメイト達の会話はでるのだが、肝心な目標となりそうなものは出ない。

そこで登場するのが学級委員長の菜沙である。
俺の少し後ろに立つ菜沙に俺は声をかけた。

「菜沙、なんかない?」

「・・・卒業まであと少しだし、お世話になった学校や先生に恩返しする。とか?」

「みんなそれでいいよな!」

俺がそう声かけすると、クラスメイトたちから異議なしの声が聞こえた。

菜沙は本当に委員長気質だとおもう。
的確な指示を出せるし、クラスメイトをうまくまとめあげる力はもはや才能というべきか。

そんな彼女がプライベートでは喧嘩師とまで言われるほどのやんちゃな奴だと知っているのが俺だけという事実に口元が緩む。

そんなことを考えていると、菜沙に頭を叩かれた。
・・・菜沙はいつも俺に容赦ないから痛い。

「早く進めて、議長さん?」

「・・・はいよ、委員長様」

それから残り数個の議題を進めたところで役目が終わり、先生に残りの時間をバトンタッチした。
俺の鷹の目で見る限り、それまでの間久城の目が菜沙から離れることはなかった。

席に戻って俺は後ろを向いてそこにいる彼女の席に肘をつけて小さく呟く。

「お疲れ様、委員長様。相変わらずいい猫かぶりで」

すると彼女は小さく微笑んで俺の耳元まで口を寄せてきた。
突然の行動に思わずドキッとしたが、次の瞬間その心音は違うものとなった。

「次は潰す」

俺の顔は今真っ青だろう。
一番後ろの席なので誰も見ることはない。
それを知ってか菜沙は机の下で俺の足を踏みつけていた。

潰す…
俺の俺が人生最大の恐怖を感じた。



……………………………
最後の最後で下ネタすみません…
高尾の話は他の作品と違って男女関係ない友達的位置から始めたかったので、今後もちょっとした下ネタなどはでるかも…


(20120917)



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