閉じた瞼と開いた瞳
―――――とある廃工場。
大きく右手を振りかぶってくる相手の男性の懐に潜り込み、アッパーを決める。
その瞬間後ろから来た違う男性をしゃがんで避け、足掛けをして転けさせる。
すると1人では敵わないと思った残りの3人が一斉に殴りかかってきた。
転けていた男性の急所を急いで蹴り飛ばしたあと、後ろに下がって3人を避ける。
そして立てかけてあったパイプを2本掴んで刀のように使い、走ってきた3人を1人ずつ丁寧に倒した。
「・・・ハァ、つっかれた」
唯一立っている少女が乱れた前髪を掻き上げながら息切れもせずに小さく呟いた。
そしてひとつ欠伸をしたあと、ゆっくり帰ろうとした。
そこに忍び寄るひとつの影。
最初にアッパーを決められた男性が立ち上がったのだ。
近くにあったパイプを握った男性が少女におおきく振りかぶった。
少女が気づいた頃には既に逃げられる距離ではなく、ギュッと目を瞑って腕で頭を守った。
が、いくら待っても痛みは来ない。
少女は恐る恐る目を開けると、前には自分より背の高い背中があった。
「よ、菜沙!相変わらず絡まれてんな」
横目で少女――菜沙――を見てケラケラと笑いながら相手の男性のパイプを奪って拳で殴り、相手が怯んだ隙に菜沙の手を掴んで逃げる。
そしてしばらく走った先にあった公園のベンチに座った。
「ハァ、ハァ…な、なんでいるのよ、カズ…」
「なんでって、俺んちへの近道なんだよ、あの廃工場は」
「・・・知らなかった」
そう言って菜沙は長いため息を着いた。
高尾は自動販売機に向かい、炭酸飲料を2本買って1本を菜沙に差し出した。
「ほらよ」
「お、ありがとう」
菜沙は素直に受けとると、蓋を開けて飲む。
余程喉が渇いていたのか、そのスピードは早かった。
その様子をみながら高尾はふと何かを思い出したかのように声をあげた。
「貸し1なー!」
「・・・いや、これで貸し0でしょ。この前助けてやったじゃない」
「そうだっけ?」
「忘れたとは言わせないわよ」
もう飲み干したらしい空き缶を片手で潰しながら、菜沙は高尾を睨み付けた。
高尾は“おー怖い怖い”といいながら両手をあげて降参のポーズを取った。
そしてそのまま彼は菜沙に質問をした。
「で?今日の原因は?」
「・・・雇われた」
「お前なぁ・・・」
菜沙は知る人ぞ知るというよな喧嘩師であり、金で雇われることが度々あった。
高尾と出会ってからは彼がヤメろというので減ってきてはいたのだが、まだ続けていたことに高尾はため息をついた。
「ごめん、つい・・・」
「もうすんなよ」
「・・・善処します」
俯いて反省する菜沙に高尾は笑顔でひと撫でしたあと、立ち上がって菜沙の手をとり、帰路についた。
その途中で進学先の話をする。
今の季節は冬、もうじき高校の入試が始まる頃。
「カズはバスケで推薦だからもう決定だったよね?」
「おう、菜沙も推薦だっけ?」
「うん」
2人とも同じ秀徳高校に推薦で進学予定だが、喧嘩のことがバレてしまったら大変なことになるのは目に見えている。
だからいつも誰もいないところで喧嘩をしていた。
そのかいあってか、菜沙は学校では真面目で勉学に励む生徒だと好印象で、推薦を勝ち取ることができた。
「ずりーよな、菜沙って。第一印象が優秀だから先生に信頼されやすいし?俺なんて第一印象聞くと皆バカそうとかチャラそうとかだからな!」
「事実じゃん」
「ひっでー!?」
ケラケラと笑いながら菜沙の背中を叩く高尾を彼女は呆れながら横目でみたあと、十字路に着いたことに気づいた。
「私こっちだから。じゃーね」
そう言って足早に左に向かう菜沙を慌てて追いかける高尾。
「いや、じゃーねじゃねーよ!!もう暗いし送るって」
「いや、いらないよ」
「不審者いたらどうすんだよ」
「殺ってやるよ」
「・・・・・・」
菜沙から一瞬だけ放たれた殺気に気づいて高尾の顔が引きつるが、女を夜に1人で歩かせるのは…といった紳士な彼の性格がスタスタと歩いていく彼女の背中を追いかけさせた。
「待てよ、菜沙!!」
閉じた瞼と開いた瞳(来るのかよ暇人)
(紳士なんだよ)
(うわー、すてきー)
(心にもねえな…)
………………………………
高尾連載やりたくて仕方なかったんです…
1回諦めたけどリトライ!!
(20120916)
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