姫様からのラブレター
「刀、貸して。」
由紀はここ5日間、ずっとその言葉を俺に言い続けていた。
それは日を増すごとにしつこくなっていた。
「だーからァ、貸さねぇっつってんだろ!いい加減しつけぇ!」
「いいから貸せ!」
・・・このじゃじゃ馬娘はなんなんだ。
寺子屋時代からの腐れ縁である由紀は、攘夷戦争が始まってからも侍として共に生きていた。
最初は仲間皆、由紀が戦争に参加することを反対した。
それでも絶対参加すると言って聞かなかった由紀を連れ出したのが銀時だった。
「おい銀時!どういうつもりだ!おなごを戦に参加させるなど許せるわけがなかろう!」
「うるせーよヅラ。仕方ねーだろ、あいつが聞かねーんだから。」
「ヅラじゃない、桂だ。寺子屋にいた他のおなごは皆既に避難しているのだぞ。刀の腕は確かに良いが、おなごが天人と戦えるわけがない。」
「まあ良いじゃねーか。好きにやらせてみろ。」
銀時は、戦の準備をしている桂の隣でねっころがりながら鼻をほじっていた。
だが、風貌からは想像できない程にその目は真剣だった。
そんな銀時の姿を横目で見た後、桂はひとつため息をついた。
そんな会話をしてからもう何日がたったのだろうか。
銀時がそんなことをぼんやりと考えていると、由紀は強行手段に突入しようと暴れだした。
銀時は奪われないように、刀を持った手を高く挙げた。
それでも諦めずに奪おうと懸命に飛び跳ねる由紀。
「なんで貸してほしいのか言えってんだ。餓鬼に刀なんて貸せるか!」
「餓鬼じゃねーってんだ!お前だって私とあんま変わらねーぐらいじゃねーか!」
「チビが跳んだって取れねーよ、諦めろ。」
確かに2人の年齢は同じぐらいだ。
しかし年齢の割に落ち着いていて、体格も良い銀時と比べると、由紀はかなり小さいし細っこい。
「おいコラ!誰がチビじゃ、誰が!」
「おー怖ぇ怖ぇ。」
そんな会話をもう何度繰り返したかしれない頃、由紀は諦めたのか刀を奪う為に挙げていた手を下ろした。
そして銀時の胸に頭をこつんと当てた状態で俯いた。
「・・・・・・ねぇ、銀時。」
先程まで元気一杯だった筈なのに突然不安そうな声で自分の名前を呼ぶ女の姿に内心動揺しながら「どうした?」と小さく答えた。
「なんで銀時は反対しなかったの?」
「・・・・・・反対したら、非難したか?」
由紀が言いたいことがすぐにわかった銀時は少し間を置いてから返答した。
その後自分の胸の中にある頭が小さく横に振られるのをみて苦笑した。
「なんだよ、反対してほしかったのか?」
「嫌だ。銀時達から離れたく・・・ない、よ。」
由紀は俺と同じ孤児だった。
俺が松陽先生に拾われてから1月ぐらい後、たまたまお遣いに行っていた俺が由紀を見つけたのだ。
「もう、捨てられたく・・・ない。」
路地で侍に殺されかけていた由紀を見つけたとき、とっさに持っていた刀で助けたのが始まりだった。
「もう、あんな思いしたく、ない。」
由紀はいまだ過去のことを話そうとしない。
言いたくないことなのだろうと俺たちも聞かないでいた。
だから「捨てられたくない」の言葉には驚いた。
胸の中で小さく震える彼女の頭を優しくなでながら、「捨てねーよ。」と呟いた。
「俺もヅラも高杉も、お前のことを捨てようなんざ考えちゃいねーよ。あいつ等はお前が心配で仕方ねーんだ。ってあいつ等は母親かよ。」
そんなツッコミを自分にいれると、由紀は顔を上げて小さく笑った。
「銀時は心配してくれないのか、ひっどー。」
「うるせーよ、チビ。」
「また言った!!もう殺す!銀時殺してやる!」
そう言って刀を取りに行った由紀の背中を見たあと、頭を掻いてどこに逃げようかと考えた。
その心情に似合わず、銀時の顔は笑っていた。
後日。
風呂からあがった銀時が自分の刀を見て、苦笑しながら小さくため息をついた。
刀の鞘には「生きろよ、天パ」と書かれていた。
(銀時ィ、お前その鞘なんだよ。)
(姫様からのラブレター。)
(・・・銀時、お前死亡フラグという言葉を知っているか。)
(だまれや!!)
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久々に短編書いた・・・。
過去に何か傷があるキャラが大好き←
(20120408)
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