*学パロ



笑顔が似合わないね、と常時ヘラリと笑っている彼に言われた。
お前が言うなよ、という思いと、褒めてるのか貶してるのか分からない言い草に、私は困り果てながら飲んでいたアイスティーにガムシロップとフレッシュを延々と入れながら、そう?なんて引き攣る笑顔を誤魔化すことばかりに集中していた。
彼は何となく出掛けた場所でやたらと会う、きっと思考回路が似ているクラスメイトなんだ、としか思っていなかったが今日何故か放課後2人でどっかお茶しないなんて例のごとくヘラヘラした笑顔で言われ、その綺麗な顔にうっかり二つ返事をしてしまった結果がこれである。
ごくりと飲んだミルクティーは甘ったる過ぎて胃がムカムカした。

「そういえばさ、名前って彼氏いるの?」

何も前触れもなくそんなことを聞かれて、思わずミルクティーを噴き出しそうになる。
なんだこいつは天然なのかわざとなのか、と彼の瞳を見たが、あざとさの中にどこか澄んだ思いを抱えるような瞳にも見えてきて私はもうよく分からなくなってきた。
つい投げやりに、いないよ、と応えると、そうなんだーと間の抜けたような声で彼は言葉を返す。
聞いた割には興味無さそう、が今の返事の印象だ。
私は沈黙が来ることを恐れ、甘ったるいミルクティーをちびちびと飲みつつ、神威くんは?と同じ質問を返す。

「俺もね、いないよ」

「へぇ、意外」

「名前は意外じゃないね」

「…そう?なんかイライラする」

「あは、嘘だよ」

飄々とした態度は、下ろした髪をすり抜けては視界を邪魔する風のようで掴み所がなく癇に障る。
結局ガムシロップ5つフレッシュ4つ入れたとんでもなく高カロリーなミルクティーをなんとか飲み干し、じゃあそろそろ帰るね、と彼に告げた。
ちょっとイケメンだったからって、ついてきたのが間違いだった、ただからかっていたのか何なのか正直よく分からずにイライラすることばかりで全然楽しくない。
偶然ぴったりあったお金を机に置いて、じゃあねと席を立った瞬間、突然私の動きは止まった。
否、止められた、が正解だろう、私の右腕は彼の手にしっかりと掴まれ、私と彼はパチリと視線が合う。

「…ごめん、やっぱ駆け引きとかよくわかんないや」

「え?」

「俺、名前のこと気になってるからもうちょっと一緒にいてよ」

彼の言葉に、私の心の中で何かが撃ち抜かれたような音が確かに聞こえた。
ちょっと困ったように眉毛を潜める、そんなのはずるい。
なにこれ、新しいタイプのツンデレかコノヤロー。
掴まれた右腕と顔に段々と熱が篭るのを感じ、さっき飲んだクソ甘ったるいミルクティーがもう一回飲みたいような気持ちになってきた。
彼の瞳はあざとくて澄んでいる。
似合わないと言われた笑顔が溢れるように出てきて、自分の単純さに頭が痛くて仕方なかった。

「すみません、ミルクティー追加で一杯ください」

つまり意外と私の方がやられてますなんて言えっこない。



2018.1.31
過去サイト「Heart Viscera」より