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緩やかに流れる川、秋口と言えどもまだ外は蒸し暑く、私は、私と同じようにここへ奉公しに来ている千代と一緒に汗を滴らせながら洗濯物を洗っていた。

「この暑さ、もう秋は始まっているというのに、まだ残暑厳しいねぇ」
「本当…でも吹く風は前より少し涼しいから、きっと寒くなり始めたら早いよ」

確かに、そしたら洗濯も指が悴んで大変になるなぁ、と千代は言いながらも、何やら好奇心を含んだ瞳をこちらに向ける。

「ところでさぁ、見たよ、あたし」

ニヤニヤと堪えきれていないその笑みに、何を、と疑問をそのまま口にした。やだぁ、いけず、なんて楽しそうな千代に私は苦笑いするしかない。

「雪子、あの白夜叉と逢い引きしていたでしょ?」

千代から発せられた言葉はあまりに予想外で、自然と目を見開いてしまった。

「白夜叉って…あの、天人との戦争で活躍しているって言う…?」
「そうよ。雪子、時々夜に銀髪の男の人と会っているでしょう?」
「…うん。でもあれは最初は偶然だったし…」
「ええ。この前の晩、月明かりも星明かりもない夜に雪子がなかなか帰ってこなかったから、心配して探しに行ったのよ。そしたら白夜叉と雪子が2人きりで楽しそうにお喋りしているんですもの。もしかして知らなかったの?白夜叉は珍しい銀の髪色の色男って、最近そんな噂で持ち切りなんだから」

大人しそうな顔してやるわね、雪子。なんて楽しそうに笑う千代に、その言葉を理解した私は段々と頬に熱が集まっていくのが分かった。
違う、そんな思っている様な仲じゃないよ、と必死で弁解したけれど千代は聞く耳を持たず。だけど私は狂乱の貴公子と呼ばれる桂さんの優雅な美しさが好きなのよねぇ、と今度は自分の妄想に浸り、その姿にもう弁解することは諦めた。

それにしても、坂田さんが白夜叉だったという事実は知らなかった。でも確かにあの美しい銀髪に精悍な顔立ちは、色男という言葉に相応しいと思う。性格はちょっと面白い人だけれど…そんな風に考えていたら、いつの間にか表情が綻んでいるのを自分自身で感じ、そのことに堪らなく恥ずかしくなってしまった。
坂田さんのことを考えると思わず上がる口角を、片手でそっと隠した時、千代とぱちりと目が合う。

「まぁ、とりあえず。雪子は心を奪われてしまったみたいね、白夜叉に」

心臓がどくりと鳴って、そのまま高揚した感情に身体全てが支配される。認めてしまえば私の中の何かが変わってしまうと理解していたけど、日に日に積み重ねた思いが胸の高鳴りとなり一気に押し寄せて、私はついに降参した。

「…うん」