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あれから彼は時々、出会ったあの場所で顔を見せるようになった。星が降るように美しい夜も、曇りがかった暗闇の夜も、そろりと現れては近くに腰を下ろし、ただ空を見つめる。最初は交わす言葉こそなかったが、同じ空間を共有するうちに、段々と彼との距離は確実に近づいていった。

「そーいやお前、よくここにいるけど暇なの?」
「失礼ですよ…近くの武家に奉公に行ってるんですけど、まだ慣れなくて、でも星空見てたら落ち着くので、よく来るんです」
「へぇ、俺より年下だろうに、そりゃ大変だなァ」

そう言葉をこぼしながら俯いた彼の睫毛はぱさりと揺らめき、その視線は刀に落とされる。使い込まれた鞘に、彼の生き様を垣間盗み見てしまったような気がして、少しだけ居た堪れない気持ちになった。

「貴方は、…その刀は、」
「ああ、これは、まァ、戦争に参加してるからな……怖いか?」
「…怖くはないです。だって、ここで会う限りの貴方は、失礼ではあるけど多分、面白くて優しい人だし」
「多分って。てか、貴方って止めろよ、なんだ、俺はアンタの旦那か」
「…っな、」
「坂田銀時。俺の名前だ、好きに呼んでくれりゃあいい」

にっ、と笑った彼は、今まで見た中で一番幼い表情で、とても素敵な笑顔だった。

「アンタの名前は?」
「白井、雪子」

少し曇りがかった星空が、段々と鮮明になっていく。それが今の私の心とリンクしているようにも思え、きっと彼もそうだったのだろうか、2人で空を見上げて、消えてゆく雲を眺めていた。

「…雪子」
「はい?」
「俺が名前覚えたかの、確認」

この人の、坂田さんの持つ不思議な雰囲気に惹かれていることに、自分でも自覚し始めている。