お昼寝をしている娘に、ブランケットを掛けた。本人も暖かい場所はどこかをわかっているらしく、陽が当たり、冬仕様のカバーが掛けられたソファーに丸くなっていて、可愛いなあ、と笑みが零れる。

そんな娘を見てから、ふと目に入ったカレンダーで、そろそろひな祭りの季節だと思い、押し入れの中を漁ると、私のおさがりだけど、立派な七段が段ボールに収まっていた。なかなか組み立てが大変だけど、子供ながらもその佇まいに感嘆したものだ。やっぱり組み立てようか、と座りながら床に一つずつ取り出すと、背中に重みが加わり、顔の横ににゅっと主が現れた。

「なにしてんの?」
「ひな祭りの用意だよ、…重いからパパどいて」
「いーねぇ、パパって。俺今だにドキッとするー」
「いーからどいて」
「…つれねーの。昔なら顔真っ赤にして「は、はなして」っていうのに」
「うるさいなあ」
「……月日って怖い」
「ブン太くんはかっこよくなったよね」
「俺もお前は綺麗になったと思うよ!」
「うんありがとう」


お前が嫁さんで俺幸せ、と言いながらお腹の前で腕を絡め、ぎゅうっと抱きしめてくる。私もすごく幸せだけど、今はちょっと邪魔かなー…なんて言えるわけなく、私は適当に彼をあしらう。結婚してから彼の態度は大分変わり、ツンデレぎみな性格が今や完全にデレデレだ。お酒が入るとそれがもっとひどくなり、お正月の挨拶で彼の実家を訪ねたとき、親戚のみなさんがいるというのにべたべたとしてきてすごく恥ずかしかったことを覚えている。


「パパ手伝ってよ…」
「んーあとでー」
「どこ触ってんの」
「胸かお腹」
「あーもう最低」
「ごめんごめん、怒った顔も可愛いなあ、好きだよ」


こめかみにちゅっちゅっとキスをされる。いまだに慣れない恥ずかしさを紛らわすために、太股を叩いても笑われて流された。まあ倦怠夫婦よりは全然いいんだけど…行き過ぎるときもある。こりずに、肩に顎を置いて服をめくろうとしてきたから、今度こそ手を叩いた。するとちぇっと舌打ちして、案外簡単に離れてくれた。と思ったら次はソファーに沈む娘のほうに行った。

「ママ忙しいから相手して……って寝てんのか」
「さっき寝たばっかだから起きないよ」
「ふうん」


じっと静かに見つめているかと思えば、今度は締まりのない顔で、床に膝をついて娘の寝顔を覗き込んでいた。放っておこうかとも思ったけど、変なところが不器用な彼に、一抹の不安を覚えたので、取り出す人形の向こう側になるように体制を変えた。


「かわいーかわいー」
「やめなよ、起きるじゃん」
「え?ヤキモチ?」
「ばかじゃないの違うよ」
「はいはい」
「違うから!」
「あっばか、」


「パパ…?」


私がやらかしてしまった。駆け寄ろうとすると、「起こしちゃったか、ごめんな?」とブン太が、娘の顔にかかる髪を避けながら言った。ふにふにした頬を緩めて、「んー」と擽ったそうに身をよじる姿は、朝のブン太のようだ。ぱぱ、と娘は舌足らずにブン太に手を伸ばすと、彼は自然に抱き上げた。その肩に顎を乗せ、彼女はブン太の首にしっかりと掴まりながらまた寝てしまった。優しく、とんとん、と娘の背中をあやすようにしながら、ブン太は柔らかく笑っている。

昔は、私にもあまり向けられなかった特別優しい顔が、こんなにも簡単にこぼれている。月日は怖い、けれどこんなにも愛おしい。彼とわたしの薬指に嵌まる指輪が、私達の変わらない愛を示しているように、きらりと光った。


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