※財前くんが社会人になっています
※ヒロイン二個年下(元マネ)











「うちに来ればえーやん」

半同棲という曖昧な形に一区切りを打ったその一言に、私は思わず言葉を失った。今まで忙しい光さんの代わりに、ご飯を作ったりなどの家事をこなしたわけだけれど、同棲ともなると、なんだか結婚を意識してしまって、嬉しいようで恥ずかしくて、…いややっぱり嬉しい。「いいんですか、ほんとに?」なんて何度も言えば、「しつこいっちゅーねん、黙ってうちに来い」と少し優しさを含んだ声色で言い放った。
そんなこんなで、私は今、恋人である光さんと暮らすために荷造りに追われている途中です。






今はちょうど割れ物を新聞紙で包んだりしているところ。一方、器用な光さんには、包装済みのものを詰めてもらい、ダンボールを積み上げてもらっていた。
お互いに会社を定時近くで抜けられるので、そこから二人で作業する、という、生活を行ってすでに3日目。光さんの家は割りとものが少ないので、すでに終わっているらしい。一人でやるといったのだが、手伝うと言ってくれた優しさに甘えてみた。(まあ一緒に居たかったっていうのが本音です)

そういえば、実家に一言連絡をしたほうがいいだろう。と思い、光さんに相談すると、なんだか上の空でいたかと思えば「いや、それは俺が挨拶に行く」と強く言った。挨拶ってなんかすごい大事になっている気がする。なぜなら、我が家はわりと放任主義(といっても、好きにやらせて失敗も自分でなんとかすべきという考え)で、結構好きにやらせてくれていた。更に光さんとはもう長い付き合いで、両親も光さんに対しては大きな信頼を寄せているのだから、同棲に関しても多少大きすぎる期待を寄せるかもしれないが、反対はしないと思うのだ。であるから、挨拶に行く、と言った光さんの真剣な表情に、ちょっとびっくりしつつも、私は社会人としての生活が彼より2年少ないわけだから、これが礼儀というものなのだと理解した。


「そういうものなんですねえ」
「そりゃそうやろ。大事な一人娘と男を一つ屋根の下で暮らさせるんや、当たり前。ほら、そっちの皿貸せ」
「あ、ありがとうございます。……ふうん。意外と真面目なとこ、好きですよ」へらっと照れ隠しに笑ってみる。
「ハイどうも。俺も自分のそういうとこ、好きやで。可愛い。」と、得意顔で言われた。
「そういうところって?」
「まあ、いつか教えたるわー」
「…えー」
「ほら、運ぶから、ちょおこれどかして」
「あっ、はい、どうぞ」
「っ、しょ」


光さんはネクタイが緩んだワイシャツを腕まくりし直し、掛け声をつけてダンボールと共に立ち上がった。「おじさんくさい」と笑うと「うっさい」と足で軽く退けられた。ひどい。そのまま玄関先へ行った光さんは、なにやらがさがさしていた。なんだ、と思いつつもふとさっきまで彼が座っていたところに、ころんと丸みを帯びた、箱?みたいなものが転がっていた。なにこれ、と掴み、「光さーん」と声を掛けた。


「なんやねん、人使い荒いな」
「でも、あの、落としてましたよ、これなんですか?」

ずいっと立っている彼に差し出すと、普段ポーカーフェイスを保つ光さんの瞳がぎょっと見開かれ、ぼりぼりと短髪を掻いていた手は止められ、全ての動作を停止していた。



「あ、あの、光さん?」
「…それ」
「はい?」
「それ、どこにあったん」
「ここ」
「あああああああ〜」



「台無しや…」って本気でうな垂れはじめた。ついには頭を抱えて、目の前にしゃがみこんでしまった。もうその行動にびっくりして、なんと声を掛けていいのか分からなくなってしまった。おろおろしていると、名前を呼ばれた。



「は、はい?」
「それは、お前にやるやつ」
「へ」
「だ、から、」
「?」
「あーもう!」
ガシッと肩を掴まれる。こんな切羽詰った光さんは見たことなくて、思わず凝視してしまった。顔が、真っ赤だ。







「結婚してくれ!」








え、と小さく漏らして、今度は私が固まってしまった。もう、なんて言っていいかわからない。確かに、結婚を意識しなかったといえば嘘になる。だってもう、高校大学、さらに社会人になるまでずっと好きなままで、気持ちは最初の頃から変わらなかった。だから、このままずっと、ずっと先まで好きでいれるくらい、好きになってて。あれ、もう何言ってるかわからない。どうしたら、どうすれば、

「おい?」

不安そうに顔を覗き込まれて、とうとう涙がポロッと零れた。それを合図に、どんどん涙が溢れてくる。唇を噛み締め、嗚咽を我慢する私を見て、小さく笑って、「泣き虫」と馬鹿にする光さんの顔がとても優しくて、また涙が溢れる。


「うう〜…」
「本当はな、もうちょっと雰囲気作るつもりやったんやで」
「光さんとなら、…っ、う、どこでもっ、なんでも、嬉しいよ〜…も、顔見な、いで」
「いやや、まだ、返事もらってへんもん」


こつん、と額を合わせられ、「返事、聞かせて?」と優しく言われる。わかってるくせに。はあ、と嗚咽を落ち着かせる溜め息を吐いて、鼻を啜る。ムードも色気もない。



「こんな私でよかったら、お嫁さんにしてください」




そうぎこちなく笑った私の薬指に、きらきらと光る、ピンクゴールドの指輪が嵌められる。不器用な手つきで嵌められたそれに、一つ笑みを零した。「絶対幸せにしたるから」と言われ、なんだかかっこよすぎて悔しくなって、「もう幸せ」と言った。



ムードも色気もない。でも、あなたがいればどこだって、あなたは私を幸せにしてくれる。私は必ず後悔しないから、あなたを絶対に後悔させないくらい、二人で幸せになろうね。


それとね、光さん。
泣き止んだらお礼を言わせて。


「私をお嫁さんにしてくれて、ありがとう」



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