心地好い春風が、わたしとブン太の繋がれた手を冷やかすように、掠め消えていく。それでも離されることはせず、ブン太は「今日あったかいな」なんて朗らかに笑うから、わたしも小さく笑みをかえす。

「なあ、今日は定期検診終わったら、駅向こうの公園行ってみねえ?」
「いいよ」

よっしゃー、とわたしの手とをぶんぶん振り回す。いくつになっても彼自身は変わらず、わたしはそういう彼らしいところに愛おしさを感じる。刹那に好きだ、と思う。初めて彼を好きだと気付いた頃より幸福で、優しくて、穏やかな気持ちになった。彼はわたしで、わたしは彼。心だけでなく、どこか深いところも彼と繋がっているのだ。とくん、とお腹が内側から振動する。とくとくん、と不規則な振動に、わたしは膨らんだ腹を撫でて返事する。待ってるよ、はやくおいで。

腹を撫でている手にブン太の手が重ねられた。ふたりで顔を見合わせて笑う。すき。あたたかな気持ちが止めどなく溢れ、優しくとける。言わなくても伝わる。けれど言わなくてはおさまらない。

「ブン太、すき」
「おれもすき」

どちらからともなくキスを交わす。誰もいない住宅街にまた春風が舞い込んだ。さっきより強い風。神様が、きっと幸福すぎるわたしたちを妬んでいる。優しくて、微かに冷たい。それは祝福と微かな嫉妬を以って、わたしとブン太を包んでいた。なんてしあわせ。

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