朝には太陽がさんさんと地を照らし、うっすら汗をかきながら登校してきたというのに、今やもう一変して今にも泣き出しそうな曇り空だ。置き傘なんてないから、どうか放課後まで持ちますようにとじっと空を見つめていると先生に指されてしまった。最悪だ…。







休み時間になると雨は本格的に降り出してきて、どうしようもねえ…とうなだれると、隣からがりがりがりと何かを削る音が聞こえた。ビニール傘に、黒い油性ペンで名前を書いてから削るという防犯を施しているのは、隣の席の丸井だった。


「…丸井」

「あー?…おっ、これ見ろぃ!天才的ぃ!」

「それ貸してよ」

「なにお前、傘ないの?」

「忘れた」

「あほだなー!」



げらげらと笑われて、その手に握られているビニール傘を奪ってしまいたくなったけど、やっぱり丸井に貸しを作りたくはないから、うざいと一喝して足を踏み付けた。イッテェ!なんて騒いでいる声を無視して、ぱらぱら雨があたる窓を見てため息を吐いた。ああ、どうしようかなあ。







* * *





で、結局。





「止まないのか…」





今日は委員会で帰るのが少し遅れたから、雨も弱くなってるかな、なんて甘くみた私が馬鹿だった。先程よりも勢いが増していて、本日二度目のため息。はーあ。



人が少ない昇降口のドアにもたれ掛かり、母に迎えを頼むメールを打ってみたが、仕事場まで電車で通っていることもあり生徒の完全下校時刻までに行くのは難しいと帰ってきた。唯一の頼みの弟には「いま彼女の家だから姉ちゃんは濡れて帰ってきてね」なんて言われてしまった。



なんでこんなついてないの、と冷える指先で、雨が飛んだ携帯の画面を撫ぜると、不意に「おい?」と肩を掴まれた。びっくりして振り返ると、そこには見慣れた赤い髪。




「なっ、……あ、丸井」

「なに、お前雨宿り?」

「したくてしてるわけじゃないし」





またもや丸井はげらげらと笑う。それにむっとして睨みつけると悪い、なんて言いながらも笑いながらあのビニール傘を握りしめていた。



もういいや、帰ろう。意を決して、携帯を鞄の奥にしまい込んで、じゃあね、と丸井に右手をあげると、「待て」と手首を掴まれた。触れた手首から、じんわりとした体温と綺麗な指についたタコが伝わって、思わず目を見開く。








「これ」






「…え」

「これ使え」




ずい、とビニール傘が突き出されて、受け取るのを渋ると掴まれた手に無理矢理握らされた。え、ちょっと、え?






「じゃあな」




なんて、ニコッと笑いながら雨に飛び込もうとする丸井のブレザーを思わず握ると、丸井は大きい目を更に大きくして振り返ってきた。少しバツが悪そうに、ぶっきらぼうに「なんだよ」なんて言われても、……私はぎゅうっと丸井の温もりが残る傘の柄を握り、口を開いた。






「一緒に、帰ろ」





かっ と熱くなった頬を感じながら丸井を窺うと、ほんのり頬をばら色にしながら、照れ臭そうに笑った。その顔が優しくて、思わず胸が高鳴った気がした。このときの私は、それが恋の前兆だなんて重要視しなかったけれど。



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