丸井くんとお付き合いを初めてはや数ヶ月…迎えた大イベントである彼の誕生日を、私はプレゼントを忍ばせたバックを眺めながら熱にうなされていました。あああ、とうなだれ、せめてメールか電話をしようとして寝たら、起きたのは日付が変わった深夜。最悪以外の何物でもない。



* * *




情けなさすぎて学校には体を引きずりながら行くと、教室の前の廊下には、扉に寄り掛かり携帯をいじりながら丸井くんがいた。あそこを通らないと、後ろのドアからも入れない。





だけどいまは、…気まずい。






でも、悪いのは私だ。





一歩踏み出そうとしたとき、後ろから野球部が大勢でやってきた。え、やばい。廊下の幅を埋め尽くすような形でやってきた彼らに、私は立ち往生してしまう。どうしよう。



思わず泣きそうになると、行列に巻き込まれそうになった瞬間、誰かに腕を引かれ、廊下の隅に立てた。ふわりと香るグリーンアップルに顔をあげると、笑いながら「とろいな」と丸井くんが私の手を握った。





ま、丸井くんだあ…






いつもと変わらない笑顔と態度に安心して、思わず泣いてしまった。丸井くんは理由がちゃんとわかったのか、カーディガンの裾で私の涙を拭い、教室のドアに背を向けて立った。誰もいなくなった廊下とは反対に、教室からはガヤガヤと聞こえるけど、私には丸井くんしか見えなかった。握られる手に握り返して応じると、赤い頭をこてんと傾げ、優しく笑って「大丈夫か?」と聞いた。





「あっ、わ、わたし、…きのっ、昨日、熱で」

「知ってる。元気になった?」

「う、ん…!あ、の、昨日、誕生日なのにメール、メールもできなかったし…!ごめ、ごめんなさい…」

「病人は大人しく寝てりゃーいいんだよ」





気にすんな、とぐしゃぐしゃ頭を撫でられる。なんでこんなに優しいんだ…。きっと私は不細工な顔がもっと不細工になってるに違いない。




「ほんと、ごめんなさ、い!私になにかっ、できること」

「いーよ、大丈夫だぜぃ」

「だめ!…あ、パン、食べる?」

「へーき」






でも、と言いながら嗚咽がとまらない。さらに止まらない涙に、ますます情けない。


刹那、丸井くんはちゅっ、と小さくリップ音を鳴らして、瞼に口付けた。びっくりしていると、丸井くんは「じゃあ俺のお願い聞いてくれよぃ?」と何かを含んだように笑う。



「うん、まかせて」

「なんでもいい?」

「うん」

「キスがいい」

「え?」

「キスしたい」





丸井くん、と言おうとした瞬間、彼は屈んで来て、ゆっくり唇を重ねた。私も少しつま先を立てて手に力を加える。瞼も綴じ、私はそっと睫毛に落ちた雫が渇くのを感じた。幸せ。こつん、と額が合わせられたとき、後からどたどたと忙しない足音がこちらに向かっていた。




はっとして二人でそちらに顔を向けると、「たるんどらぁあああ」と真田くんがすごい形相でこっちに向かってきている。怖!








すると、ぐい、と繋がる手が引っ張られ、丸井くんは走りながら、あの、はじけるような明るい笑顔を見せた。それに笑顔で答え、私も一生懸命走る、走る。繋がる手が離れないように、しっかりと握りながら。






この逃避行が落ち着いたら、丸井くんに自分からキスをしてみよう。髪と同じくらい顔を赤くさせるだろう彼に、目を見て伝えるのだ。


おめでとうと、大好きを。


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