「俺と付き合うて」







暗い暗いテニスコートの真ん中で、頬をほんのり赤く染めながら、彼はまっすぐ私を見て言った。普段はクールな財前とは違い、どこか緊張しているようだった。




そうさせている雰囲気がどうも恥ずかしくて、私は「ど、どこに…」と有り得ない切り返しをした。いつもなら「あほか」と頭を叩かれてもいいくらいなのに、財前はただ私を見つめている。「ちゃう」






「俺の彼女になってくれんか」








びっくりしすぎて、中途半端に口が開く。ぽかんとしていると、「あほづら」と笑われた。その優しい笑い方に胸がきゅうん、と疼いて夢じゃないと頭が大騒ぎする。夢なんかじゃ、ない。




夢ではないのかと疑ってしまう。私はこの状況を何度も夢見ていたのだ。相手は間違いなく好きなひとで、―――財前で。




じわりじわりと私の胸を彼の視線が焦がしていく。思わず、涙が瞳からこぼれ落ちていて、私は少し拭いながら、僅かに不安げに私を見る財前を見上げた。



「わたし、財前が好き」
「…ほんま?」
「ほんまに。」



「…………俺もや」





私の濡れた頬を指先で撫でながら、ふわり、柔らかな優しい笑みを見せた。慈しみを含んだ目尻に、私の心は高鳴りを止まずに、彼を好きだと叫んでいる。すき、すき、だいすき。





暗闇の中で、ゆっくり財前が屈んで近づいて来る。ちらりと僅かな光りを反射したピアス、薄い形の良い唇、長い睫毛。スローモーションで私に近づいていた。私もそっと瞳を閉じて、彼のユニフォームをきゅっと握る。







夢のような瞬間で、彼だけが確かなリアリティを私に与えていた。



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