※クラスメイトの男子を"田崎"に固定してます







「丸井くん、がんばれーっ」
「かっこいいー!」




外から、きゃあきゃあと女の子たちの黄色い声援が教室に届く。自習だということで、仲の良い友達とで、数学の課題の処理をしようと窓際に固まっていた。クラスの中は雑談で軽く賑わっていたので、特に外の声援の中心人物に注目はされなかったけれど、友達はにやにやと私と外にいる彼、丸井くんとを見比べていた。……なんかいやだ。




「な、なに?」
「いや?旦那人気だねえ」
「だ、だっ、旦那じゃ…ないよ」





どうやらリレーをしているらしく、ちょうど丸井くんは走っているところ(らしい)。ちら、と横目で窓の外を見ると、すごく真剣な表情と、綺麗なフォームでぐんぐん相手との距離をつめていた。か、かっこよすぎる。恥ずかしくなりつつ、いつもは可愛い笑顔ばかりの彼のかっこいい姿に目を奪われてじっと見ていると「あ、彼氏じゃん」と上から声がする。見上げるとクラスメイトの田崎くんがいた。にやにやと丸井丸井と彼の名前を連呼する田崎くんに、友達がはあ、とため息を吐いた。



「田崎…からかうことしか脳にないのね」
「うん楽しいから!」
「…ひどすぎる」
「ほら、いーから応援しろよ」
「やっ、やだ!恥ずかしいじゃん」
「おーい丸井がんば、ぶ!」
「田崎やめてえ!」





窓の枠に肘をつき、手の平をメガホンのようにして大声で応援しだした。やめてほんとやめて!と彼を友達と引っ張りレポート用紙でぼかぼか叩いた。さいあくだ!ちらりと外を見ると、どうやら女の子たちはこちらに気づいてないようだ。よかった、と安堵したのもつかの間、走り終わって女の子たちに囲まれている丸井くんがいた。




ずきん、




なんだか嫌だなあ、と胸が痛むのを隠すようにため息を吐く。丸井くんを応援するのも、お疲れ様を言うのも、自分だけでありたいなんてとんだ我が儘、ぽつりと心に浮かんで急いでしまい込む。だめだ、泣きそう。



そっと目を伏せて外を見ると、丸井くんが仁王くんの隣に腰掛けながらこちらを見ていて、ぱちり、と目が合う。彼の大きな瞳が見開かれて、私の胸が高鳴る。



丸井くんは、にかっと太陽のように明るく笑い、ひらひらと手を振ってくれた。それが嬉しくて、思わず頬が緩む。へにゃり。私絶対いま情けないくらいあほな顔してる。レポートを抱きしめながら手を振りかえすと、後ろからそれを田崎くんに引ったくられた。




「これ貸してー」
「い、いいけど…」
「あんがとなあ」
「うわっ」




がしがしと頭を撫でられる。せっかく朝頑張ったのに…と手櫛で整えながらもう一度窓を見ると、いまだにじっと丸井くんがこっちを見ていた。


さっきとは打って変わり、眉をひそめて怒っているようだった。な、なに。なにをしたっけ。





ちょうどチャイムが鳴り、丸井くんはすごい速さで校舎に入った。何がなんだかわからなくて、仁王くんを見るとウィンクされて、友達も「諦めてじっとしてなさい」と言った。えええええ



どうしよう!ほんとどうしよう!とりあえずどこかに逃げようかとした瞬間、バン!と勢いよく教室の後ろのドアが開いた。クラスが注目したそこには、むすっと怒った表情の丸井くんがいた。息は荒れていなくて、冷静に運動部だなあと思っていると、ずんずんと大股で座っている私の目の前までやってきた。

「ま、丸井く、」
「…」
「お疲れ、さま…」
「ん」
「…あの」
「お前は」
「は、はい…?」





「お前は、俺だけ見てればいーんだよ!よそ見すんな!」






真っ赤な顔で叫ばれて、私も恥ずかしさとそれを上回る嬉しさで顔を真っ赤にした。心臓に悪い。じわじわと熱くなる瞼を感じながら、騒がしくなる周りの声を無視して丸井くんをじっとみていた。



「丸井くんは、迷惑じゃないの…?」
「じゃない!」
「ほ、ほんとに…?」


「お前だけだ、俺には!」




顔が紙と同じくらい真っ赤で、瞳は真剣そのもので、強く私を見つめている。…だめ、幸せすぎて泣きそう。机に投げ出した手を握られた。少しだけ湿っていて、とても、とても熱かった。ぎゅうぎゅうときつく握られる手を、私も握りかえした。



「わっ、私も、丸井くんだけ!」

「…当たり前だろぃ」





頬を緩ませると、丸井くんも恥ずかしそうにしながらも笑った。その笑顔が私だけに向けられてるだけで、なんでもよくなってしまった。


クラスメイトたちのニヤニヤした視線に気付いて、丸井くんが大慌てで帰るまで、あと十秒。





(…熱いわね)((!!))(ま、まるいくん、あの!)(じゃ、じゃあな!あとで!)(う、うん!)((初々しい…))


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