少し冷たい風が、スカートをはためかせる。それでも私は気にせずに、屋上のコンクリートに寝転がっていた。綺麗な空を見ていると、さっきまでいらいらしていたのが、だんだんと和らいで来る。だけど寝返りを打つと、なんだかまたいらいらが蘇ってしまった。

こう私がいらついているのには理由がある。今日は、彼氏兼幼なじみの、ブン太の誕生日なわけで、今日は誕生日だから、と苦手なお菓子作りをしてまで、彼が食べたいと言ったケーキを持ってきた。カスタードやら生クリームやら、タルト生地やら。私には無理難題とされるだろうそれらを使ったケーキを要求され、だけど私は一生懸命作ったのだ。最初はそんなものは他の子に貰えばいい、なんて思ってもないことを言ったのだけど、

「お前のだけでいーよ」

なんて言われれば、…作るしかないでしょ?そんなわけで作って持ってきたのに。奴は教室で嬉しそうに女の子からプレゼントを渡されていたのだ。お前のだけって嘘?と思ったけど、ブン太は人気者だし、人の努力とかそういうのを大事にするから、なんとなく私のだけ、なんてことはありえないんだ。

少し落ち込んだけど、とにかく渡そう、と教室に入ろうとしたときだった。


「ま、丸井くん!ケーキ、よかったら…」

真っ赤な顔をした女の子が、とてもおいしそうなショートケーキを差し出していた。…ああ、家庭科部の子か。綺麗で立派なそれと、くりっとした瞳を長い睫毛が、…なんか、すごく悲しくなってしまった。不器用で可愛くない私の作った、不格好なケーキがだんだんと重くなっている気までしてしまう。

ブン太のばか、と筋違いの言葉を心の奥で呟き、ぎゅっとケーキが入った箱を抱きしめ、ブン太の顔を見ないようにしながら踵を返そうとすると、誰かに呼び止められた。振り向くと、仁王が廊下に立っていて、不思議そうに「入らんの?」なんて聞いてくる。


「仁王ちょうどいいね。これ、渡しといて」
「…これ、ブン太にじゃろ?自分で渡しんしゃい」
「頼んだ、から」



そう仁王に押し付けて、今に至る。もう食べたかなあ。まずかったかな…なんて、やっぱりどうしてもブン太のことばかり考えてしまう。ばかは私だ。つまらないことでこんないらいらして。


「もうやだあ…」

そう口にして、膝を立てながら腕で顔を覆うと、じわりじわりと瞼が熱くなってきた。その時。



「やなのは俺だけど」




聞こえた声に反射的に体を起こしながら振り向くと、そこにはさっき仁王に頼んだケーキを持って、少し機嫌が悪そうにしているブン太がいた。びっくりして動けずにいると、ブン太がずんずん大股で歩いてきて、どかっと私の横で胡座をかいて座る。一連の動作をただ見ていたら、ブン太の大きな瞳が私を睨んだ。


「これ、仁王から貰ったんだけど」
「…だって仁王に頼んだもん」
「俺はお前に渡されたかった」
「…だって」
「ん?」


膝に顔を埋めて、だって、と渋ると、先を促すようにブン太が優しく相槌を打って、私の頭を撫でる。ずるいなあ。とうとう涙が出てきて、涙声で、だって、と続けた。



「ズズッ、…ブン太、ほ、他の、…ぅ」
「他の?ああ、あれか」
「わたしの、なんか…」
「ばか、何言ってんの」



顔あげろ、と柔らかい声色で言われ、ゆっくりと上げると、ブン太は優しい顔でゆるりと瞳を細めていた。


「他の子のはありがたいって思うよ。だけど、お前のだけは欲しいって思うし、貰えたらすげー嬉しいし、…とにかく、特別なの、特別」


途中から恥ずかしさを隠すように、早口でまくしたてて、ついにはそっぽを向いてしまった。耳が真っ赤で、なんだかおかしくなって笑ってしまう。笑うな、と言われたけど、やっぱり止まらなくて。どうしようもなく、好き。不器用だけど、あったかくて、優しくて。


そう思っていると、自然と体が動いたらしく、私はブン太の胸に飛びついて、「お誕生日、おめでとう」と言ってキスをしていた。「これからも私だけ特別でいさせてね」なんて、恥ずかしくて恥ずかしくて、言ったあとに、赤く染まった顔を隠すように顔を胸板に押し付けた。


初めての自分からのキスは下手くそだけど、ブン太が嬉しそうに「ありがとな」と笑うから、これもありかな、なんて。



フルーツタルトレットと少女の甘い約束


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企画「りんごほっぺ」様に提出。
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました。

ブン太おめでとう!



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