三年間着た制服の、少しだけくたびれたプリーツ。髪はいつも通り揺るやかに巻いて、頑張ってちょっぴりお化粧もしてみた。全身鏡で一回転して笑ってみる。…どうにも固くて、泣きませんように…と不安になってしまう。

「おい!早く降りてこいよ!写真!」
窓の外から呼ぶ声に、私は今行く!と声を張って返事をした。

――今日、私は立海大を去るのだ。







あの日受けた神奈川県内の女子大に、私は合格を貰った。びっくりしすぎてブン太の部屋に飛び込むと、視界の隅にゲームをしている仁王くんと切原くんが目を丸くしてこっちを見ていたけど、気にせず合格通知と封筒をベッドに寝転がりながら暢気に「おー」とかいうブン太に突き出した。

第一声が「やっぱ俺の予想は当たったな…天才的ぃ!」とか言って来たので、なんだか安心して立ったまま泣いてしまった。「よ、よかったよおー」と子供のように大泣きする私をオロオロと切原くんがティッシュくれたりしたけど、仁王くんとブン太は私を見て大笑いしてたな…。あれから、春休みにブン太にくっついて私の部屋に来た仁王くんに、からかわれたりもした。性悪だな!もう!

と、まあ幸せなのは一瞬であって、それから私はまた不安に飲み込まれていた。友達できるかな…とか、迷わないかな…とか。ブン太や友達にはくだらないといわれたけれど、結構重要な問題だった。

けれど合格してから卒業式までの間、私は友達と遊びに遊びまくったから、そんな問題もどこかへ飛んでった。中には浪人している子もいたけれど、みんな新しいスタートを切ることに変わりはない、とそれまでの時間を一秒も無駄にしないように、時折過去を懐かしみながら語り合ったり、馬鹿みたいに騒いだりした。


そしてとうとう来た卒業式。…の前に、今、私とブン太の家の恒例の、写真撮影をしている。家族ごと、二家族集合写真、メインの人物の写真と順番に取られていくこの恒例行事。この前はブン太の家の末っ子の入園式のときに撮ったなあ。とぼーっとしていると、ブン太のママに「ほら二人とも並んで!」と急かされる。どん、と私の左肩がブン太の右腕に当たって、とんでもなく緊張して背筋が伸びてしまった。誤魔化して髪を整えていると、斜め上から「なあに、お前今日おしゃれしてんの」と馬鹿にしたように言われて、「せっかくの日だもん」とつき返す。

…我ながら可愛くない返事だなーと思いながら、立ってレンズに向かってピースをしながら、さっきの固い笑顔を作った。隣のブン太もなんだかぶすっと考え込んでいるような、すねているような顔をした。



「ちょっとーあんたそんな作り笑顔しないの!可愛くないんだからとりあえず笑いなさい!」
「そうだぞー笑えー」
「もう、ブン太、あんたも笑いなさい!」
「にーちゃんブスー」
「ぶすー」



と矢継ぎ早に家族らから飛んでくるブーイングに「うるさいな!精一杯の笑顔なのー!」とかえすと、ちびたちは何がおかしいのかケラケラと笑っていた。頬を両手でぐにぐにとマッサージしていると、ブン太ママは「あっ、もう時間着ちゃうから、撮るよー」とカメラを構え始めている。


改めて、にっこり笑って両手でピースを作って構えた、「はい、チー」その瞬間、左手が掴まれて頬に暖かい感触。「ズ」、チュッ




…え?


反射的にブン太を見ると、悪戯が成功した子供のように、無邪気に笑っていた。びっくりして動けない私の腕を引っ張って、私の荷物すらも引っ手繰ってブン太が走り出した。背にはちびたちの「きゃあああチューだああ」と騒ぎ立てる声と、ワンテンポ遅れて大人たちの騒ぐ声。なんだかおかしくて笑っていると、ブン太の笑い声と重なった。







走って走って、走り続ける。本当は車で行くはずだったから、走らないと間に合わない。いつもは重たい脚が、今日はすごく軽い。少し前を走るブン太を見上げると、楽しそうに笑っている。信号で止まると、ブン太は私の手の指と指の間に自身のそれを絡めて、ぎゅうっと力を込めたから、私もそうすると、私の名前を呼んで、「こっち向いて」と左手で顔を上げさせられた。

優しく笑ったブン太の頬が朱色に染まっていて、私は引き寄せられるように、背伸びをして彼のそこに、彼が私にした場所と同じように唇と落とした。目が合って、そして笑いあった。


繋いだ手は離さない。この先不安もあるけれど、ブン太の「大丈夫」が、私の背中を押して、ブン太の隣へと並ばせてくれる。

信号が、青になった。二人で同時に走り出すと、心の中のあったかい気持ちが溢れて、思わず笑みが零れてしまう。

見えてきた校舎にある桜が、ところどころに花を咲かせて、春の訪れを謳っていた。


春になったら
おわり!




110404 新しいスタートを切るみなさんへ!頑張ろう!
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