頬杖をついて、はあ、と溜め息を吐きながらグラウンドに目をやる。私は窓際の一番後ろという特等席なわけで、気兼ねなく外を見れる…とは言っても、既にカリキュラムは終了し、今は自由登校の期間なので、叱るはずの教室監督のひとも読書に没頭しているため、誰に叱られることもないので、気ままに外を見る。

ちらほらと人がいて、空席が目立つのに張り詰めた空気が漂う教室に、息苦しさを感じてしまう。当たり前だけど。手元の教科書の英文を解釈するわけでもなく無意識に、S、V、と書き込んで、嫌になってシャーペンを置いてみるけど、頭がそれを拒否するかのように和訳を始めた。

ああ、嫌になる。








携帯と財布を持って1階にある自動販売機に向かうと、左脇に隣接されている水色の色褪せたベンチに、見慣れた赤い頭を見つけてしまった。制服をぐちゃっと着こなしてだらしなく座っている姿に、なぜか少し緊張してしまう。無意識に前髪を整えていた自分に気付いて、誤魔化すように咳をすると、ふと目が合った。
「よお、勉強?」
「まあね。あんたは?」
「俺は後輩の付き合い。」


そう笑った爽やかなまでのこの幼馴染の顔を見ると、なんだかさっきまで感じてた憂鬱が晴れていく。そういえば昔から、私はこいつにそうやって泣き止まされてきたんだったなあ。泣いてたら、「大丈夫、治る、大丈夫」と言われて、なんだかおかしくて二人で笑ったり。変わらないなあ、と思いながら財布を開けると、「どれ飲む?」とすぐ左隣にブン太が立っていて、びっくりして思わず体を仰け反ると怪訝な顔をされてしまった。

「だからあ、どれだよ?」
「え、あ、あの、黒ウーロン…」
「ぶはっ!お前、一応男に奢ってもらうんだから可愛い子ぶれよ!く、くろウーロン…!」
「ちょ、なに?!い、いいじゃん別に!小さい割りに高いんだから、リッチじゃん!」
「はいはい」

おっかしーの、と楽しそうに笑いながら、ブン太はズボンのポケットから茶色い財布を取り出して、素早く黒ウーロンを買った。よく分からなくて一連の動作を見ていると、「ほら、」と頬に貼り付けられた。咄嗟にそれを受け取ると、「俺からの頑張ってるお前にご褒美な」と笑った。「ブン太、」お金、と言おうとすると、「お礼は」と言われた。お礼?お金でしょ?と首を傾げると「あーりーがーとーうーは!」とブン太は腰を曲げて、私の顔を覗き込みながらわざとらしく言う。「ありがとう!」となかば強引に言わされた感謝を口にすると、頭にポン、と手が乗っけられてぐしゃぐしゃと掻きまわされる。

思いも寄らない、彼らしい優しさに泣きそうになって、されるがままになっていると、名前を呼ばれた。私は俯いたまま返事をした。


「こっち向けよ」
「や」
「なんで」
「泣くもん」
「なんで泣くんだよ」
「あのブン太がおごってくれるなんて……奇跡で…」
「ちょ、お前なあ!」



あは、とふざけて笑いを零すと、少し涙がぽろっとついでに出てしまった。こういう優しさが、嬉しい。昔からこの人は、怖いくらいいいタイミングで私を励ましてくれる。いつもは子供っぽい言動が多くて、女子からは可愛いと持てはやされているけど、私にはブン太が兄のように大きな存在に思えて仕方ない。

ブン太がいるから頑張れる。「大丈夫だよ」って言ってくれるから、頑張れる。私が馬鹿みたいにぽろぽろ涙を流しているのを、ブン太は髪を直してくれながら泣き止むのを待ってくれていた。



「…ね」
「ん?」
「今日、一緒に帰ろ」



「しょーがねーな」と笑って私の涙を拭ってくれた親指が、少しかさついていて痛かったけど、何よりも温かだった。





ねえ、ブン太を見ると、明るい未来が不安なく想像できるんだよ。なぜだかは、もう分かっている。分かっているけど言葉には、まだ、しない。だけど春になったら、言葉にするの、考えても良いかな。



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