くりっとした瞳にさらさらの黒髪。それが私の知る財前くんだった。女の子顔負けの顔のパーツは、ひとつひとつが整っていて、いつかはすごくかっこよくなるんだろうな、なんて漠然と考えていたけれど、もうその日は近いと思った。
私たちは、だいたい週一くらいの頻度で電話をする。そして最近、財前くんの声がすごく低いのだ。こういうところで、男の子なんだなあと感じる。
どんどん財前くんは大人になるのに、私は、立ちすくむしかできなかった。
*
すべての不安を発散させるように、近くのテニスのコートで壁打ちをした。思ったように体が動かず、日も沈んで視界が霞んでくる。くやしい、くやしい。
「寿々はそのまんまでええよ」
だけど、私は財前くんに追いつきたい。待って、待って、待って。距離は離れているけど、心は近いと信じたいから。
刹那、膝からガクリと崩れ落ちた。そのままだらりと座り込むと、辺りの静寂に孤独を感じて、財前くんを思い出してしまう。
「寿々」
振り返ると、そこにはブン太くんがいた。ラフな格好で、ラケットバックを背負いながらガムを膨らませている。
隣に住む彼は、弟の世話の延長線で、私を気にかけてくれるいいひとだ。だけど、このときばかりは、少し私を落胆させた。もっとも、勝手に財前くんを期待した私のせいであり、彼の優しさにはなんの罪もない。
「ブン太く、ん」
「もう暗いし帰るぞ。明るいうちに気付いたら相手してやったのによー」
「いつからいたの?」
「1時間前?」
「…そっか、」
彼はボールを拾い上げ、私のラケットバックを背負って「ほら早く帰んぞ」と眉をひそめながら急かした。差し延べられた手をとって立ち上がると、ブン太くんは自転車を押しながら、ゆっくりと歩きだした。
「あ、そういえば」
「えっ忘れ物?」
「寿々、体力ついたな。あとフォームも。初めより良くなってる」
わしゃわしゃと頭を撫でられ、嬉しくて笑みを零す。遅いかもしれないけど、私は少しずつ、財前くんを追えているということだろうか。
…まだ時間は掛かるけど、財前くんならきっと待っていてくれるから、私は歩みを止めない。ゆっくりだけど、確かに距離は縮まってるって、信じているよ。
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