たくさん、ありきたりな観光名所を回った。つまらないかな、と思ったけど案外楽しそうにしてくれていたので、私はふと出来る会話の狭間を、埋めるように口を動かす。ひとつずつ丁寧に内容を選ぶような余裕はないから、きっと変なことばかり言っていたはずなのに、財前くんはちゃんと相槌を打ってくれた。ああ優しいなあ、と昔とかわらない所を嬉しく思った。
そうしてずいぶん歩き回ったとき、不意に財前くんが立ち止まった。「どうしたの?」
「ごめん」 「え?」 「もう帰らないかん、」 「え…」 「…ごめんな」
申し訳なさそうに目を伏せた財前くんに、首を横に振る。仕方がないことだ。繋がれた手が、ゆっくり離された。
「あっ…」不意に漏らした声に、財前くんが目線を上げる。 「なん?」 「な、んでも、ない」 「…ん」
外気にさらされる手が、さっきまで熱を宿していたからなんだか寂しい。行かないでほしい。でも言葉にできない。こんなにも彼を欲しているのに、拒否されることが怖くて言い出せない。どうしよ、う。
「ねえ、寿々」 「伝えてみれば?」 「思ってること全部。私は、いいと思うよ。」
そうだ。あのとき、少しでも気持ちを言おうとしてた。今なら、いいだろうか。行き場を無くした手を握りしめて、財前くんを見つめて、息をすうっと吸い込んだ。
「ま、また、会いたい!」 「えっ」 「迷惑だってわかってるけど、でも、会いたいし、声が聞きたい!」 「…」 「迷惑、だよね…」黙った財前くんから目を反らして、少しだけ俯いた。 「そんなわけない」
えっ、と顔を上げると、真剣な顔で私を見ていた。
「俺は、いつだって会いたいって思う」 「声も聞きたいし、顔を見たいねん」 「どんな状況でも気持ちは、そう思うとる」
思わず、涙が溢れた。同じように思ってくれてることが、とても嬉しい。何度も何度も頷くと、財前くんは柔らかく笑って、「しゃあないやつ」と言った。
「財前くん」 「ん?」 「今度は、私が会いに行くよ」 「うん」 「絶対、いい女になって、会いに行く」 「期待しとる」 「だから、…その時まで、まってて」
「うん」
約束、と二人で笑い合った。夕暮れが優しく、ぼんやりと私達の帰路を照らす。きっとこれからの道は手探りで進まなきゃいけないだろうけど、きっと道の途中であなたが待っていてくれていると信じているから、迷わず進んで行ける。
財前くんとの距離は、少しだけ縮まった。
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