「はよ、案内してや」と財前くんは少し屈んで、私の表情を伺ながら笑う。嗚咽交じりの情けない声で頷くと、はあ、とため息を吐かれてしまった。「しゃあない奴やなあ」と親指で涙を拭ってくれて、触れたところがじくじくと熱を持つ。
「頼むから、泣くのは俺がそばにいれるときだけにせえよ」
「え、」
「約束やで」
「う、うん」
ゆびきりげんまん、と財前くんが私の小指を拾って、子供のように歌い出すから、思わず笑ってしまった。じとりと睨まれたので、笑いを噛み締めて彼に合わせて歌う。ゆびきった、と一緒に離した瞬間、はよ行くで、とくるりと私に背を向けた。よくみると首まで真っ赤になっていて、また笑みが零れてしまう。
なんでもないことに、こうやって彼が、財前くんが加わるだけて愛しくてしょうがなくなるんだ。
昨日は飲み込んでしまった感情は、確実に温かみを覚えて、胸を締め付けていく。ねえ、財前くん。いつか言うから、今日だけはただ側にいさせてね。