■ 熱を帯びた境界線

 もう熱さなんて忘れた。

 じくじくと疼く傷口も、まるで神経が通っていないみたいに麻痺している。

 くすりはないか、そんなものはない。でも今すぐ止血しないと死んでしまう。仕様がない、死ぬしかない。そんな話があるか、後生だから、薬を分けてくれ。すまないが他をあたってくれ、余所様に構っている余裕なんて持ち合わせていないんだ。

 そんな会話が頭上から聞こえた。もう指先の感覚もなくなってしまった。

「なァ仙蔵、俺は、どうしたらいいんだ」

 俺なんかおいて、さっさと忍務を済ませてしまえばいい。この忍務を成功におさめたら、きっと文次郎は組頭の座を確実にものにできるだろう。
 だから、いけ。私なんてもう死ぬさだめなのだから、はやく。

 馬鹿野郎、縁起でもないことを云うな。阿呆はおまえだ、わかっているくせに、私は往生際の悪い奴は嫌いだ。

 こみあげてくるものがあって、それを吐き出すと文次郎の手が赤く染まった。
 いくないくな、俺をおいて逝くな、仙蔵。もうどうしようもないじゃないか。じゃあな文次郎、迎えがきたようだ。

 閉じた瞼の裏から伝わっていったものは、じんわりと熱を帯びて、文次郎の手の甲をぬらした。





2012/8/9

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