■ 貴方に花を、私には偽りを

 両手に花をかかえて雷蔵が帰ってきた。笑顔が眩しくて、思わず三郎は俯いてしまう。それは、どうしようもないことだと思った。だって雷蔵はきらきら光っていて、三郎はどろどろに汚れている。雷蔵は誰にでも優しいけれど、三郎は雷蔵だけにしか優しくない。三郎が雷蔵以外にあげるのは本当の優しさなんかじゃない。嘘で塗り固めた思わず優しいと勘違いしてしまう明らかな悪意。立花先輩とかにはすぐに見抜かれてしまったけど、それが三郎の『やさしさ』。竹谷や久々知に見せる笑顔も、後輩に見せる笑顔も全部全部嘘。嘘をつくことに罪悪感を抱く事なんてとうの昔に忘れてしまった。幼い頃から身の回りには嘘が転がっていたし、嘘だってばれなければそれはたちまち真実にすり替わることを知っていたから。それが三郎の生き方、やり方。そう、雷蔵以外は全部嘘でいい。だから雷蔵には本当の三郎を見せてあげるのだ。素顔だけは見せてあげないけど、それ以外は全部雷蔵のもの。

だから雷蔵も俺だけ好きになって。
両手の花が枯れる頃には、君の笑顔がさらわれてしまうよ。
だから。


2012/8/9

[ prev / next ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -