■ 痛いの痛いのどうか飛んでゆけ

「おまじない、してあげる」

 擦りむいた膝小僧を抱えて涙を目尻いっぱいにためる留三郎に、伊作は甘さをはらんだ声音で優しくそう言った。

「痛いの痛いの、僕に飛んでこい。ほらはやく」

 独特の節をつけながら軽快に唄う伊作の瞳は相変わらず優しい。しかし留三郎は思わず長年の癖で合いの手という名のつっこみをいれてしまった。

「おまえが痛くなってどうすんだよ馬鹿!」
「え?僕痛いのは慣れっこだからさ。へ―きへ―き。留三郎と違って僕丈夫だから!」
「そういうことじゃなくってよ…!」
「ほら、手当てすんだよ。もう痛くないだろう?」
「……お、おぅ」

 留三郎は痛みのひいた膝小僧を指先でひとなでしながら、どうか他の誰でもいいからこの世の痛みなんて、兎に角伊作以外の奴に飛ばしてやってくれ、と心の隅でそう思った。




御題提供:雲の空耳と独り言+α様

2012/6/27

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