■ 幕切れ目前で心中

 淡い視界が広がっていた。

 実習で使用する薬草を摘みにいつもとは違う場所にきたのだけれど、そこは聞いていた話よりもずっと綺麗で、まるでこの世のものではないような場所だった。
 時々山賊の類が出るらしいので後輩たちは連れてこなかったが、こんなことなら連れてきてあげればよかったなぁと、頭の隅でそんなことを思った。
 森がちょうど開けたところにあるそこは様々な種類の草や花が生い茂っていて、お目当ての薬草もすぐに見つかった。それを手際よく摘んで、伊作は時間に余裕もあったのでこの辺りを散策することにした。


「やあ伊作くん、奇遇だね」

 聞き覚えのある声に後ろを振り向けば、柔和な笑みを浮かべた雑渡がひらひらと手を振っていた。

「お久しぶりです。こんなところで何をしているんですか?」
「仲間の弔いにきたのさ」
「弔い……ですか?」

 そうだよ、と言って雑渡はよいしょ、とその場に座り込んだ。

「伊作くんは薬草の採集かな?」
「はい、今度の実習で使うので」
「摘み終わったらはやく帰った方がいい。なんせここは極楽谷だからね」
「極楽谷?」
「この地は以前は有名な戦場でね、この下には何万という亡骸が眠っているんだ」
「だから極楽谷ですか」
「安らかに眠れますようにって、どこぞの誰かがいい始めたらしい」

 風が吹く度に草木がいっせいに体を傾ける。その様がひどく美しくて、伊作はすっと目を細める。

「もしかしたら僕もいつか、この下で眠るのかもしれませんね」

 それじゃあ僕は帰ります、と伊作は元来た道を引き返しながら肩越しに雑渡を振り返って、それではお気をつけて、と軽く会釈をする。

 すでに雑渡の姿はなかった。



end.
2013/7/13
御題:自作



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