■ きみからすべて奪ってゆく
※死ネタ
ぽたりと落ちたのは、まぎれもない赤。透明に透き通った粒と混ざって、水たまりをつくる。
「いたい、いたいよ」
後生だから、ひと思いに殺してほしい。あと一押しすればたやすく絶えてしまうであろう命に未練などないから。だからはやく、はやく。
「殺してなんかやらない。おまえには、そうでもしないと気がすまない」
動けないように近くにあった木に身体をくくりつけて、そうして鉢屋は嗤った。
「おまえが死んでも、雷蔵はかえってこない。おまえが、私の雷蔵を殺めたのだから、当然の報いだ」
伊作は唇から吹き出る鮮血を拭う術もなく、顔中を血まみれにしながら、微笑んだ。
「美しい復讐だね、鉢屋」
「でもね鉢屋、ここで僕が死んでも、」
「黙れ」
「ほらきいてよ!おまえがこの復讐を果たしたとして、おまえのところに不破はかえってきやしないんだ」
「黙れ黙れ黙れ!」
「ねぇ鉢屋、ようくきいて」
「口をひらくな外道が!死に急ぐなら望み通りにかなえてやる!」
「ほら、気を付けて、うしろ」
ぐちゃり、
鈍く走る痛みが一気に全身に広がる。
「とっておきのお客さんをよんでおいたんだ」
目を見開いて後ろを振り向けば顔を真っ青にした食満がいて。
「嗚呼、これこそが素晴らしい復讐劇の連鎖、なんて醜いんだろう……!」
最期ににぃ、と緩く笑みをたたえて、伊作は絶命した。
了
2013/6/19
御題:容赦
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